無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
 日曜日は街に出かけ、私に似合いそうな勝負服を探した。
 どうせなら普段とは違う感じの服を選ぼうか。馬子にも衣裳、という言葉もある。
 ショウウィンドウを眺めながら歩いていると、白のノースリーブのトップスに淡いパープルのフレアスカートを合わせたマネキンが目に留まる。

「かわいいな……」

 思わずひとりごとが口をついて出た。
 吸い寄せられるようにお店に入り「あのマネキンが身に着けているものを一式買いたいのですが、私にも似合いますか?」と女性スタッフに尋ねてみる。
 すると、にっこりと笑って私の体に合うサイズのものを出してきてくれた。

 実際に試着をしてみて、鏡に映る自分を確認する。
 似合っているかどうかは自分ではわからないものの、洋服のデザインや色は上品さもあるし、とても気に入った。
 私がいつも選ぶ無難なものとは雰囲気がまったく違うから、ガラリと変身したいのならこれだ。

 少々値は張ったけれど、お金を惜しむ気持ちは一切なかった。この日だけは気に入ったものを買うと心に決めていた。
 一世一代の計画を実行するのだから、多少の出費は致し方ない。

 計画を実行するXデーは、今週の金曜日に決めた。
 前日の夕方にマツエクと髪のトリートメントを終わらせて、ついに当日の朝を迎える。

「知鶴ちゃん、なんだか服装が華やかね」

 今日は購入した勝負服を着て出勤することになるので、誰かに見られる前に制服に着替えたくて早めに会社に来たというのに、佐夜子さんに見つかってしまった。
 ロッカールームで案の定、いったいどうしたのかと言わんばかりに彼女が上から下へと視線を向けてくる。

「イメチェンです。マツエクも無事に完了しました。佐夜子さんのおかげです」

「まつ毛、いい感じに上がってるね。メイクも上手! かわいいわ~」

「ありがとうございます」

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