無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
「悪い、俺も切り上げる。神野さんは先に帰って」

「いえ! えっと……そういうわけにはいかないのです。それだと計画が狂うというか、別の日に出直しになるというか……」

「ん? 計画?」

 あせってうっかり滑らせてしまった自分の口をあわてて両手で塞ぐ。
 私はなにを口走っているのかと自覚したら、額に汗が滲んだ。

「志賀さん、今から飲みに行きませんか?」

「俺と?」

 突然のことで志賀さんはポカンとしているが、とりあえず彼を誘う言葉は言えた。
 緊張で私の心臓はドキドキしすぎて爆発寸前だ。
 だけどほかの人が誰もいない今は、私にとってこれ以上ない好機なのだから、どうにかねばって説得してでも志賀さんを連れ出したい。
 
「神野さんから飲みに誘われるなんてすごく意外だな。でも……今夜はやめとく。ごめん」

「ど、どうしてもダメですか? この際自分で言っちゃいますけど、今日の私の服装は気合が入っててめちゃくちゃレアなんです。このまままっすぐ家に帰るのはもったいないので、志賀さんとコミュニケーションをはかりたいんです!!」

 ダメだ、完全に挙動不審になっている。
 志賀さんは途中からクツクツ笑いながらも、たどたどしい私の言葉を聞いてくれていた。

「レアな神野さんの私服か。見てみたいけど、今日の俺は……ダメかも」

「あの……なにか悲しいことがあったんですか?」

 デスクに広げていた書類を片付けていた志賀さんの手がピタリと止まった。

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