無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
「なんで?」

「勘です。元気がないように見えたので」

 朝一番から志賀さんはいつもと違って、どことなく様子が変だった。
 誰も寄せ付けないようなオーラをまとっていて、覇気もなく、明らかに笑顔も少なかった。

「俺もまだまだだな。普通にしてたつもりなのに。同僚に気を使わせるとは」

 彼を毎日細かく観察している私ならば容易に気付ける。それを白状するわけにはいかないけれど。

「ま、そういうことだから。今日は気分が乗らないかな……」

「だったらなおさら! 一杯だけでも行きませんか? ひとりでいると余計に考えこんじゃうでしょ? 誰かと話して気を紛らわせるほうがいいですよ!」

 ああ、もういいや。計画は中止にしよう。神様がやめておけと言っているのだ。
 それよりも、落ち込んでいる志賀さんをこのまま放ってはおけない。
 励ますなんておこがましいのはわかっている。私はなんの役にも立てないけれど、彼の気持ちを少しでも上向きにしたい。

「無理やりですみません! 私、着替えてきますね!」

 自分でも強引で勝手だという自覚はあった。
 たしかに気分が落ち込んでいるときは、なにをするのも億劫になり、ひとりでいたいと思いがちだ。
 けれど私の経験上、こういう場合は誰かと世間話をしたほうが結果的に早く浮上できる。 
 私はロッカールームで素早く着替え、あわててオフィスに戻ってみると、帰り支度を終えた志賀さんが待っていてくれた。

「ほんとだ。私服の雰囲気が違うな。髪型も。……あ、メイクも。神野さんこそなにかあった?」

「いえ。週末なので気分を変えたかっただけです。イメチェンデーです!」

「デーって。なんだそれ」

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