闇が渦巻く世界の果てで

(三)


「あぁ、尋くんおはよう」

目が覚めると、牢屋のような場所にいた。そして、目の前で笑顔を浮かべているトールさんが目に入る。後ろには、僕を心配そうに見ている4人がいた。

「なぁんで戻ってきちゃったのかな?あのまま瑛人くんと尋くんどっちも殺しても良かった所を、折角2人とも助けてあげたのに」

本気で憐れむような目で僕を見ながらトールさんはそう言った。彼の感情が何も読めない。何を企んでいるのか…何もわからなかった。

「まぁ俺たちもそう鬼じゃないからさ、尋くんがこっち側に来てくれても良いんだよ?」

ようやく、トールさんが考えていることがわかった。僕を、人を殺す側に引き込む気だ。ニコニコの優しそうな笑顔を浮かべているトールさんと、少し距離を取る。

「尋くん、友達か誰かに、その力について気持ち悪いとか、言われたんだよね?」

「………っ」

全て見透かされている気分になった。

「可哀想に…。ここの国はみんな力を持ってて、みんな同じような体験をしている。だから誰も君を非難しない。誰も君を気持ち悪いなんか言わない。だからさ、」

トールさんは、誰もを魅了するような甘い笑顔を浮かべて言った。

「こっち側に来ても良いんだよ…?」

その言葉に、謎の安心感が湧く。このまま、トールさん達と一緒にいても、僕は何も損をしない。むしろ、得しかないのではないか。そういう気持ちが湧いてくる。

「なぁ尋、お前がどんな事情があるのか知らないけど、そんなやつの言葉簡単に信じると絶対後悔するだろ」

うしろから聞こえた恭の声でハッとする。

「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」

僕がそう言うと、トールさんはつまらなそうに笑うと牢屋から出て行こうとする。途中で振り返ると、僕の方を見てにっこりと笑った。

「あぁそうだ尋くん。ユカの“はじめて”可愛かったなぁ」

挑発するようなその言葉に、一気に不安が増して行く。

はじめてとは何か…

「まさか……」

僕のその言葉に、トールさんは楽しそうに言った。

「ユカの甘い声は、癖になるね」

何かがプツンと切れたのがわかった。今までの色々なものが崩れてく感覚がする。

「ゆか………」

虚しく牢屋に響き渡る声は、きっとゆかには届かない。

それが僕に1番絶望を与えた。
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