闇が渦巻く世界の果てで
(四)
「ねぇゆか…あいつらに、何されたの?」
恐る恐る聞いたその問いに、ゆかは冷たい瞳を向けてくる。
「言う必要、ある?」
拒絶された気がした。これ以上踏み込むなと言われた気がした。
僕のなんとも言えない顔を見て、ゆかが困ったように笑う。
「少し、薬を盛られたくらいだよ」
何かを隠している気がする。ただ、ゆかはそれ以上は何もいう気がないらしい。
「ところで、他の4人は誰…?」
ゆかの問いに、後ろにいた恭がすぐに声を出す。
「廣瀬恭弥。恭って呼んで」
「山森仁です」
「ふ、藤田りんです」
「小林かりんよ」
恭につられたように他の3人も自己紹介をする。最後にゆかが笑って口を開く。
「堀崎ゆかです」
それだけ言うと、口を閉ざす。一瞬、ゆかがゆかじゃない気がした。ゆかはずっと何かの恐怖に溺れている。なんらかの理由で、僕たちと壁をわざと作っている。そんな気がした。
「レン様には気をつけた方がいいよ…。躊躇いなく暴力を振るって人を殺すから」
ゆかはそう言うと僕たちと少し離れた所に座った。
沈黙が辛い
誰も一言も言葉を発さないこの空間が辛かった。
「ね、ねぇゆか」
おもいっきってゆか声をかけた時に目を見開く。
「ゆ……か……?」
ゆかからは返事のひとつもない。床に倒れていて、とてつもなく呼吸が荒い。ゴホゴホと咳き込んだ後に、ゆかは吐血する。
「ゆか……‼︎」
突然の出来事に、何もすることが出来なかった。
「いや……おね…おねがい…します……」
ゆかが消えそうな声でそう呟く。
「ゆか…?」
「助けて……くださ……い…トール……兄……様…」
それが、トールさんに助けを求めている物だとはすぐにわかった。ゆかの顔色はどんどん悪くなり、どんどん呼吸も荒くなって行く。突然、目の前で倒れていたゆかを誰かが引っ張り上げる。
「ユカ」
気づけばそこにいたトールさんが、懐から薬らしきものが入った瓶を取り出し、その中の一粒をゆかの口に放り込む。
そして……
目の前でゆかとキスをした。