闇が渦巻く世界の果てで
(五)
「何か、あったの?」
顔色も良くなり、目を覚ましたゆかは、僕たちとかりんちゃんの間にある気まずい空間を感じてそう問いかける。
「もしかして、私のせいだったり…するかな?」
不安そうにそう聞くゆかに、真っ先に答えたのは恭だった。
「小林が堀崎と尋のことを気持ち悪いって言ってたから、それで少し揉めただけ」
「気持ち悪い…」
恭のその言葉にゆかはぼそっとそう繰り返す。
「尋とお揃いなら、悪くはない…かな」
ゆかはそう言ってにっこり笑う。一気に、僕の曇った心も晴れた気がした。
「ねぇ尋、多分ね、この地下牢のどこかに隠し扉がある。魔力を使わなくても出られるような扉が」
ゆかはそう言うと目を瞑る。
「ちょっと、探してみよっか」
何をするのか、聞かなくても薄々分かった。ゆかは今、魔力で部屋を見ている。目ではなく、魔力で。そうすることで、普段は見えないはずの隠れている何かが見える時がある。と、快斗さんは言っていた。僕はなぜかその才能だけがないから出来ないらしいが。
ゆかが手をかざした瞬間、空気がグッと変わった。
冷たいけど温かい。そんな感覚だった。他のみんなも、ゆかのことを見ている。
「…………………あった」
ゆかはそう言うと、何もないように見える壁に向かう。その壁をゆかが触った瞬間、壁が押されて扉が開く。
「すげぇ…」
恭がボソッとそう呟く。
「尋…悪いんだけどさ、尋はここ、開けられるかな…?」
ゆかのその問いに、僕はゆかが触っていた場所を手で押してみる。けれど、微動だにしなかった。
「多分…王族だけが開けられるのかもね」
ゆかのその呟きに、少し引っかかる。
(王族…?)
ゆかはその王族に分類されるらしい。考えればその通りかもしれない。王族であるユーリさんとトールさんを兄様と呼んでいるわけだし。
ただ、あらためて考えると、少し複雑な気分になった。
「中調べてみるから、ちょっと待ってて」
ゆかはそう言うと、扉の中に入って行く。少し、嫌な予感がした。
ゆかが入って少ししてから、中から大きな物音が聞こえた。何かに思いっきりぶつかったような音だった。
「ゆか…?」
声をかけてみるが返事はない。
「ッ………」
ただ、耳をすませば、ほんの僅かに、ゆかの声が聞こえた。
何かに苦しむような声だった。
「いやっ………ウッ……」
ゆかの声と一緒に、また物音も聞こえる。
突然扉が開き、ゆかが投げられた。壁に思いっきりぶつかり、その場に倒れる。
「何やってんの…?ユカ」
優しいけど全てを凍らすような声が聞こえる。そこには、レンさんが立っていた。