闇が渦巻く世界の果てで
「君、魔力持ってるのになんで人間側にいるの?」
突然声をかけられて顔を上げる。そこには1人の青年がいた。長めの金髪に紫の瞳のイケメンだ。
「なんでと訊かれましても───僕はこの国が嫌いなだけなので」
そう答えると、男性はフッと笑った。
「君、面白いね。ただ、人間界にいて、悪口は言われたのだろう?気持ち悪いとか、そういうことを」
僕が頷くと男性はニコニコしながら僕を見ていた。
「こりゃあネロ殿が気にいるのも良く分かる」
ネロさんの名前が出たかと思うと、僕の顔を触ってくる。ゾッと寒気がした。
「良い魔力を持ってるね。こっち側にくれば、侯爵以上の位を貰えるはずなのに」
なんでかなぁ?と聞いてくる男性には、トールさんとは違う怖さを感じた。
「レオン・グラディーア。僕の名前くらいは覚えといて損はないと思うよ?ハハッ。きっとネロ殿も同じようなことを言っただろうね」
男性───レオンさんはそう言うと去っていった。よくよく考えると、ネロさんに様付けをしていない時点でレオンさんはかなりの身分のはずだ。
なぜわざわざ僕に話しかけてきたのかは謎すぎる。
レオンさんを目で追ってみると、ゆかとネロさんが話している所にレオンさんが乱入し、3人で何か話していた。
ゆかは、随分と楽しそうだった。
そのことが、とても引っかかる。
ネロさんも、レオンさんも、ゆかに向けてはとても甘い笑みを浮かべていた。隙があればすぐに取り込もうとでもしそうな笑顔でゆかに接している。
「尋くん」
ゆかのことを見ていたからか、目の前に人がいることに気が付かなかった。目の前でニコニコ笑ってる人物ことレンさんは、不気味に笑っていた。学校みんなが、不思議そうに僕を見ている。
「なんで尋くんあいつらと仲がよさそうなの?」
「山中達が生きてたのって裏で繋がってたからじゃね?」
「えぇ───尋くんはそんなことしないよ」
「どっちにしろいつあいつらと知り合ったんだよ」
沢山の生徒が僕のことを好き勝手言っているのがわかる。少し、複雑な気分だった。
「随分と可哀想な言われようだね」
嘲笑うようにそう言ったレンさんは僕の目をまっすぐ見つめてくる。
「ねぇ、本当に尋くんはこっち側に来る気はないのかい?」
その瞬間、目を合わせたことを後悔した。その瞳に吸い込まれるような感覚になる。快斗さんから教えてもらった、レンさんしか使えない特別な魔法だ。目を合わせた相手を会話に引き込む能力。それを使われているとわかる。下手に気を抜くと、つけ込まれそうだった。
「尋くんのことはね、この国のたった2つの公爵家の2人がとても気に入ってるんだよ」
公爵家の2人───。誰かはわからないがなんとなく心当たりはある。
「ネロとレオン。あの2人は尋くんを欲しているし、ユカも君を大切にしている。なんならトールも、君のことは少し気に入ってるみたいだよ?ここまで条件が揃ったら、こっち側に引き込むしかないじゃないか」
淡々と話し続けるレンさんに寒気がする。
「ただ一言言ってくれれば良い。ストライアにつく───とね。それだけで君は幸せになれる」
「─────────僕───は───遠慮しま──────⁉︎」
言い終わる前に、魔力を抉られるような感覚になった。レンさんから感じられる独特な力。これも快斗さんに教えてもらってる。相手の魔力を、一時的に使えなくする能力だ。
「尋くんさ、一回学校の生徒殺してみよっか」
「何を言って─────────」
そこで誰かの悲鳴が聞こえる。
「え──────?」
近くで女子生徒が倒れていた。みんなが恐ろしいものを見るような目で僕を見ている。
(嘘───だよね───)
自分が殺した。その真実だけが胸に突き刺さる。
「ほら‼︎やっぱり山中もそっち側なんだって‼︎」
「尋くんは信じてたのに───」
「嫌だ‼︎死にたくない‼︎」
生徒達からの批判が耳に入ってくる。
「お前‼︎ふざけんな‼︎」
気づけばレンさんにそう怒鳴っていた。レンさんは相変わらず笑顔を浮かべている。
「まぁまぁそんな怖い顔しないでよこの後のゲームも、君への信頼を全て無くした生徒たちと一緒に頑張ってね───?」
そう笑って去っていく背中を、視界がどんどん暗くなっていく中で呆然と見つめていた。