闇が渦巻く世界の果てで
(三)
「山中寻」
後ろから誰かに名前を呼ばれた気がした。ただ、日本語じゃない。
「你从斯特里亚王国逃出来了吗?」
中国語だ。なんとなくしか分からない。
「啊,不好意思。李雲嵐。是我的名字。」
雲嵐という名前だということは聞き取れた。一体なぜ、僕の名前を知っているのだろうか。
「从史斯特里亚王国传来,一找到你就要抓住你」
やばい。話を読み取れない。
「簡単に言おう。尋。お前はストライアに狙われている。全国各地でな」
急に日本語を話し出した彼にギョッとする。狙われている?
「改めて。李雲嵐だ。ストライア王国での名前なら、ウンラン・ネイバスだな。一応公爵の爵位を持っている」
ストライアの貴族。あいつらは、どこまで勢力を拡大しているのだろうか。
「ついて来い。快斗から話は聞いてある。匿ってやる」
突然出せれた快斗さんの名前に、目を見開く。もしかして、味方か?
「俺の所は上海全土に勢力を広げている。公爵である俺が匿えば、お前は見つからないだろう。他の国にも、貴族はたくさんいる。そのほとんどはまだストライアに順従だ。信用出来ないかもしれないが、今は俺を頼れ」
ここで逃げたとしても、何も変わらない。それなら、着いていくのが最善だ。
「ついたぞ」
言われた場所を見上げてギョッとする。ストライアのような国ではないのに、堂々と立っている城のような建物。そしてその中に入った瞬間、目に入った2人の人物に目を見開く。
「由香已经可以控制魔力了吗?」
「是。是还不习惯的身体」
「不愧是你啊!」
ゆかが、1人の男と中国語で楽しそうに話している。そしてその隣でつまらなそうに快斗さんがその会話を眺めていた。
「快斗。予定より来るのが早いな」
「あぁ雲嵐。少し急いでたからな。そっちも尋を拾えたみたいでよかった」
雲嵐さんは快斗さんとゆかの横にいる男性に声をかける。
「自我介绍了吗?」
「啊!!这么说来,没有做!!」
「傻瓜」
何か中国語で話した後、隣にいた男性は僕とゆかに笑顔を向ける。
「炎天陽。拥有斯特里亚王国的侯爵爵位」
天陽さんはにっこり笑う。
「よろしくね‼︎尋くん、ゆかさん」
日本語を喋れるなら最初からそうしてほしい物だ。天陽さんもストライアの貴族らしく、侯爵の爵位を持っているらしい。
「快斗さん、あの、なぜストライア王国の貴族と関わりがあるのですか?」
「こいつらは、レンに忠誠を誓ったのではなく、俺に忠誠を誓った奴らだ。俺が王族を辞めた今は、レンに仕えているが、レンには内緒で事実上は俺に仕えてる」
「はぁ……?」
色々と複雑な事情もあると言った快斗さんはまた口を開く。
「とりあえず中で話をしよう」