闇が渦巻く世界の果てで
(四)
「う、雲嵐様‼︎」
突然、天陽さんの焦った声が聞こえてくる。
「ストライア王国から、1時間後にこちらに来ると」
その言葉にゾッとする。バレたかもしれない。そう感じたが、雲嵐さんは随分と余裕そうだった。
「きっとまだバレていない。お前たち3人のこの組織としての立場とか、性格とかそういう人物像をまとめたからこれ通りに動け。そうすればきっとバレない」
雲嵐さんはそう言うと、机に何か冊子を置いて去っていく。それを開けて、絶句した。
「これを覚えろって言うのかよ」
快斗さんの言葉に、僕も頷く。とてつもなく長い長文と台本がそこにはあった──
◆ ◇ ◆
「お久しぶりですレン様、トール様」
防犯カメラの映像を見ながら、僕はかなりハラハラしていた。いつバレるかわからない。それだけで一気に不安になる。快斗さんもゆかも、別行動だ。何があるかわからない。
「一応、屋敷を見せてもらってもいいかい?」
レンさんのその問いに、雲嵐さんは不気味に笑った。
「私達を疑っておるのですか?」
「まさか。ただ念のためだよ」
その言葉に、雲嵐さんは防犯カメラに向かって軽く口を動かす。
プランAの実行。僕は雲嵐さんから貸してもらったチャイナ服を着て部屋を出て行く。動き自体はとても簡単だ。ただ自然にレンさんたちが通る時に頭を下げるのみ。ただそれだけに、ここまで緊張するのは初めてだ。
遠くに男装(?)したゆかが見える。自然に。そう自然に動けば大丈夫だ。僕は深呼吸をしてから、レンさん達が通る道で頭を下げる。足音が近くになるにつれ、少しずつ緊張が増していく。
そして、何事もないように、通り過ぎて行った。
「素晴らしい魔法だね、雲嵐」
突然、レンさんが止まったかと思うと、くるっと方向転換をして僕の前に戻ってくる。
「なぁ尋くん。ほんのちょっとの安全な暮らしはどうだった?」
「な、ぜ」
無意識のうちに、僕の口からそう言葉が漏れる。目の前で勝ち誇ったような笑顔を浮かべているレンさんが楽しそうに雲嵐さんを見た。
「ご協力に感謝するよ雲嵐。カイトは君に上げるよ。毒を飲ませたからしばらくは魔力が使えない。奴隷にするなり殺すなり、好きにしていいよ」
レンさんの言葉に、僕は目を見開く。
雲嵐さんが、裏切った
最初から罠だったのかもしれない。
「ところで雲嵐。ユカの追跡は出来てないのかい?」
レンのその言葉が妙に引っかかる。もしかして、ゆかはまだ見つかってない…いや、まだ雲嵐さんはゆかがここにいることを話してないのかもしれない。
「ユカさんに会ったことがないため、追跡に時間がかかっております。カイト様が別の場所に飛ばした可能性もあるかと」
雲嵐さんは淡々とそう喋る。やっぱり、ゆかのことは隠している。レンさん達が話しているのを見ていた僕の近くに、天陽さんがしゃがみこみ、耳元で口を開く。
「大丈夫です。尋さん達もすぐに助け出します。今はとりあえず、ゆかさんの安全を第一に。レン様に怪しまれないように話を合わせてください」
天陽さんはそう言うと、不気味に微笑みレンさん達の方にかけよる。
話し声はイマイチよく聞き取れない。ただ、レンさんが僕の方を見てから発した言葉だけは、しっかりと聞き取れた。
「ユカを見つけても無理に連れてこなくて良い。ただ僕に連絡だけはしてくれ。それとユカに、3日以内に戻ってこないと尋くんを殺す。そう伝えておいてくれ」
僕を、脅しに使う気だ。
逃げないとという心と裏腹に、体はどんどん重くなっていく。
気づけば視界が真っ暗になっていった。