闇が渦巻く世界の果てで
(五)
◆数日後◆
「ユカっ──」
突然、私は呼び止められ、レン様に無理やり部屋に引き摺り込まれる。
頭に遮るのは恐怖と不安。
「──────イヤっ‼︎」
「ユカ──ユカ‼︎お願いだから、話を────」
必死に抵抗する私を宥めるようにしてから、レン様は私の手を離す。ふとレン様を見つめると、とても悲しそうな目をしていた。
あ────れ────?
私、なんでこんなにレン様に恐怖を抱いてるんだっけ?
確かに、怖い。
けど、それもその程度のことだったはず。
ここまで露骨に拒絶する必要はあった──?
なかったはず。
レン様は少しだけ苦しそうに呼吸しながら、私を見つめ続ける。
「あ、の────?」
そういえば、尋は──?
今突然思い出した。
逆になんでここ数日出てこなかった?私は彼を取り戻すためにここにきたのに──
少しずつ、頭の中がスッキリしていく。曇っていた何かが見えてきた気がした。
「ユカ───一緒に、トールから逃げよう」
──────え?
レン様から放たれたその言葉に呆然とする。
何を、言って──
「ユカ。トールは洗脳を得意としているんだ。トールが術を発動している最中に相手の目を見つめて相手の名前を呼び、相手に自分の名前を呼んでもらうことでそれが成立する。君に毎日のように蓄積されていた洗脳魔法を、少しずつ解いていたから良い物の、アレを浴び続けていればいつか君の記憶がほとんど全て消えてしまう」
もしかして、私がさっきレン様と会ってから少しずつ頭がハッキリしてきたのって────
「けどそれなら最初から洗脳を解けば──」
「それはできない。出来なかった」
私の言葉を遮ってそう言うと、悔しそうに顔を顰めた。
「トールアイツは、ストライア王国の本当の国王だ。国民全員の記憶を操ってあたかも最初から僕がその座にいたかのようにしているが、それは違う。ユカのお母さんを僕に殺すように命令したのも、ゲームを何回も開催したのも、咲さんを殺せって命令したのも────君のお父さんを殺したのも、全てアイツだ」
トール兄様がそんなことをするはずがないと信じたくても、目の前のレン様の珍しく真剣で、不安そうで、微かに震えている声を聞くと、とても嘘とは思えなかった。
「信じなくても良い。そうなるような事を君にしてきたのは僕だから。ただ、尋くんは雲嵐のところに送ってある。元々この国に連れてきたのも偽物で、本物はあの後コッソリ天陽に引き渡した。カイトに薬も持ってない。事情を話してそんな風に振る舞っただけ」
次々と出てくる本当だったらかなり嬉しい内容に、微かな安堵が浮かぶ。
「ネロとレオンは既に君の為に動いている。一緒に、トールから逃げないか──?ユカ」
縋るような瞳に、気づけば私は頷いていた。
正解かどうかは分からない。
けどそれでも、今のレン様は信じた方がいい気がした。
~ゆかside END~
「ユカっ──」
突然、私は呼び止められ、レン様に無理やり部屋に引き摺り込まれる。
頭に遮るのは恐怖と不安。
「──────イヤっ‼︎」
「ユカ──ユカ‼︎お願いだから、話を────」
必死に抵抗する私を宥めるようにしてから、レン様は私の手を離す。ふとレン様を見つめると、とても悲しそうな目をしていた。
あ────れ────?
私、なんでこんなにレン様に恐怖を抱いてるんだっけ?
確かに、怖い。
けど、それもその程度のことだったはず。
ここまで露骨に拒絶する必要はあった──?
なかったはず。
レン様は少しだけ苦しそうに呼吸しながら、私を見つめ続ける。
「あ、の────?」
そういえば、尋は──?
今突然思い出した。
逆になんでここ数日出てこなかった?私は彼を取り戻すためにここにきたのに──
少しずつ、頭の中がスッキリしていく。曇っていた何かが見えてきた気がした。
「ユカ───一緒に、トールから逃げよう」
──────え?
レン様から放たれたその言葉に呆然とする。
何を、言って──
「ユカ。トールは洗脳を得意としているんだ。トールが術を発動している最中に相手の目を見つめて相手の名前を呼び、相手に自分の名前を呼んでもらうことでそれが成立する。君に毎日のように蓄積されていた洗脳魔法を、少しずつ解いていたから良い物の、アレを浴び続けていればいつか君の記憶がほとんど全て消えてしまう」
もしかして、私がさっきレン様と会ってから少しずつ頭がハッキリしてきたのって────
「けどそれなら最初から洗脳を解けば──」
「それはできない。出来なかった」
私の言葉を遮ってそう言うと、悔しそうに顔を顰めた。
「トールアイツは、ストライア王国の本当の国王だ。国民全員の記憶を操ってあたかも最初から僕がその座にいたかのようにしているが、それは違う。ユカのお母さんを僕に殺すように命令したのも、ゲームを何回も開催したのも、咲さんを殺せって命令したのも────君のお父さんを殺したのも、全てアイツだ」
トール兄様がそんなことをするはずがないと信じたくても、目の前のレン様の珍しく真剣で、不安そうで、微かに震えている声を聞くと、とても嘘とは思えなかった。
「信じなくても良い。そうなるような事を君にしてきたのは僕だから。ただ、尋くんは雲嵐のところに送ってある。元々この国に連れてきたのも偽物で、本物はあの後コッソリ天陽に引き渡した。カイトに薬も持ってない。事情を話してそんな風に振る舞っただけ」
次々と出てくる本当だったらかなり嬉しい内容に、微かな安堵が浮かぶ。
「ネロとレオンは既に君の為に動いている。一緒に、トールから逃げないか──?ユカ」
縋るような瞳に、気づけば私は頷いていた。
正解かどうかは分からない。
けどそれでも、今のレン様は信じた方がいい気がした。
~ゆかside END~