闇が渦巻く世界の果てで
第1章~希望というものはすぐにできてすぐに消える~
(一)
「で?あなた誰ですか?」
僕は男に案内された家に上がり、そう問いかける。男はまぁ座れと僕を椅子に座らせてお茶を出してから口を開く。
「橘快斗。俺の名だ」
男、快斗さんはそう言うとで、お前は?と僕に名前を聞いてくる。
「山中尋です」
僕がそう言うと、快斗さんはニッと笑う。
「尋か。お前、幸運だな」
「はい?」
急に言われたその言葉に、僕はつい聞き返してしまう。
「この世界で魔力を持ってる奴らはね、2種類いるんだよ。生まれつきある人と、何らかのきっかけで突然できる人。まぁ突然できる人は10年に1人いるかいないかだな」
快斗さんは突然そう語り始める。
「そして、尋。お前はその10年に1人だ。普通そういう奴らはすぐに死ぬんだ。魔力の制御が出来ずに勝手に死んでいく。惨めなものだ。ただ、お前は違う。俺と出会ったということは魔力の制御を教えてもらうことができる。使うことができる。誰かを助けることができる。ただそのかわりに、誰かを殺すことも気軽にできてしまう」
「誰かを殺すなんて僕は絶対……」
「そう言ってるやつこそ人を殺すんだ。優しすぎるからこそ、簡単に折れてしまい、簡単に人を殺す」
根拠はないのに力強い言葉に、僕は息を呑む。
「お前が人を殺すとわかった瞬間に、被害が出ないように俺はお前を殺そう。これからの話を聞きたいなら、それを把握してからだ」
快斗さんの目は、本気の目だった。きっと、僕が何かやらかして、誰か罪のない人を殺そうとした瞬間に、僕はもうこの世に存在していないだろう。僕は軽く深呼吸をしてから頷く。
「わかりました」
僕のその言葉に、快斗さんは満足そうに笑う。
「それじゃあ、まず魔力を持ってるやつの特徴から話すか。まず一つ目、子供を産めない。二つ目、ある程度まで成長すると歳をとらなくなる。三つ目、女の子で力を持っている人は存在しないと言われている」
中々独特な特徴だ。快斗さんはにっと笑ってまた口を開く。
「で?お前はどこでレン達と知り合ったんだ?」
快斗さんのその問いに、僕は今まであった全てのことを話し出す。全て話すと、快斗さんは難しそうな顔をしていた。
「もしかしたらそのゆかって女、魔力持ちかもな」
快斗さんのその言葉にギョッとする。今さっき、女の子で魔力を持っている人は存在しないと言ったばっかだ。
「女の子の魔力持ちは、存在しないのでは?」
僕のその問いに、快斗さんは気まずそうに答える。
「あくまでそう言われているだけだ。ここ何百年かは存在しなかった。ただ、レン達が狙うということは、90%以上で魔力持ちだ。女の子なのに力がある。それだけで奴らが狙うには最高の獲物だよ」
快斗さんはそう言うと、「どうしたものか」と呟く。
「最初はレンの国ごと潰そうと思ってたんだけどなぁ…その女の子がいると無闇に攻撃できない。何の罪もない女の子だ。生かしてあげないといけないだろう?」
快斗さんはそう言うと、まいったなぁと呟く。
「あの、どうにかしてゆかを助けられませんか?僕はすぐにでもゆかを助けたい」
僕が力強くそう告げると、快斗さんはマジマジと僕を見てから笑った。
「焦るな。お前はまだ力の制御が出来てない。下手にやると、速攻で死ぬ」
快斗さんのその言葉が胸に刺さる。お前には出来ない。そう言われた気分だった。
「だから、これから教えてやるよ。どうせ暇だろ?朝からみっちり一日中しばいてやる」
快斗さんはそう言って、ニッコリ笑った。