闇が渦巻く世界の果てで
第3章~君の為なら全てを壊す~
(一)
「けど本当に、レンさんがこっち側についてくれるとは思わなかった」
僕、山中尋のその呟きに、近くにいたゆかが微かに笑う。
「1番、敵だと思っていたもんね」
ため息混じりのその言葉に、レンさんは苦笑した。
「申し訳ないとは思っているよ。一応」
「一応⁉︎」
やはりどこか掴めないレンさんだが、最近、少しずつ彼の優しさがわかってきた気がした。
初めてレンさんと話したあの時は、本当に不気味だったが、今はそんな事はない。
優しさがひしひしと伝わってくる。
本当は、良いやつなんだろうな。
そう思うようになっていた。
今、僕の周りには雲嵐さんの薬を飲んで魔力の気配を変えた僕とゆかと、雲嵐さんと天陽さん、レンさんにネロさんに、レオンさんに、快斗さんと、勢揃いだった。
「出来る事なら、ストライア王国の国民をみんなアイツの支配から離したいんだけど…難しいよね」
レンさんの呟き。
きっと、レンさんは、トールさんの支配がなければかなり良い国王になってたんだろうな。
そう思うと、すごくトールさんに怒りが湧いてくる。
全て、彼のせいだ。
きっと、ここにいる全員の人生を狂わせた。
許せない───
「焦るなよ、尋」
突然耳元で快斗さんがそう呟く。
そうだ。焦ってはいけない。
しっかりと確実に、やっていかないt──────
「屈めっ‼︎」
レンさんの大声に反応して、咄嗟にしゃがみ込む。レン様が作っている巨大な防御壁は、僕たち全員を守るように目の前の攻撃を防いでいた。
「────────────っ」
レンさんの防御壁に重ねるように、ネロさんとレオンさん、雲嵐さんが防御壁を作り上げる。快斗さんと天陽さんは、目の前の相手に攻撃を仕掛けようとしてから、咄嗟に止めた。
「今攻撃しない方がいいんじゃないかな?俺の手にはユーリがいるんだ。君たちの大好きなユーリが、ね」
トールさんは気絶しているユーリさんを持ち、僕たちに笑顔で話しかけてきた。
「俺は今すごく怒っているんだ。またレンが反抗なんてするからねぇ──ついつい殺したくなる」
「やめろ───ユーリは──────」
トールさんが持っているユーリさんからポタポタと血が流れてくる。
殺す気だ。
「天陽───お前の主は誰だ?ほら、言ってみろ」
そしてトールさんは、後ろの方でゆかを守るように立っている天陽さんにそう問いかける。天陽さんは、軽く息を呑み、雲嵐さんと、快斗さんを見つめてから微かに口を開く。
「僕、の──主は───」
「テンヨウ──お前を拾ってあげたのは誰だい?お前を生かしてあげたのは誰だい?まさか、カイトとか雲嵐とか言わないよね?」
天陽さんの声が途切れる。声が震えていた。そして静かに口を開く。
「トール…様、です」
天陽さんはそう言うと、近くにいたネロに魔力を放つ。
「っ───お前」
ネロさんは咄嗟の攻撃に上手く反応ができず、その場に膝から崩れ落ちた。
「良い子だ天陽。そのまま内部から壊していけ。君の力は無限にある。そこの公爵3人なんかより遥かに強い。君なら出来るよ」
天陽さんの目が、僕の方に動く。獲物を捉える目だった。
「っ尋、下がってろ」
雲嵐さんが僕を守るように前に出る。防御壁を作っていたみんなが一気に崩れたことにより、僕たちを守っていた防御壁が粉々に散る。
「危ないっ‼︎」
突然、目の前で爆音が鳴る。
バチバチと音を立て、何かの破片らしき物は僕を守るように立っていたゆかによって朽ちていく。
「ゆか───」
今のを見て、確信した。
ゆかは僕なんかよりも断然強い。
ストライアの王族──
その名に恥じない強さだ。
ゆかの目に浮かぶのは、戦いへの恐怖や不安ではなかった。
今この中で、僕が1番弱い。
僕が1番足手纏いだ。
「────ユーリ‼︎」
遠くでレンさんがそう叫ぶ。軽く遠くに目を向けて絶句した。
レンさんの頭上から粉々になって舞い散る何か──
髪の毛や、目、血、肌、臓器────
──────ユーリさんのだ
「天陽‼︎お前はあんなやつに忠誠を誓うのか⁉︎あんな──あんな味方すらも利用して殺すやつに‼︎」
雲嵐さんのその声に、ハッとしたように天陽さんは動きを止めた。そして恐る恐るレンさんとトールさんのいる方を見る。
「嘘───だ───アレ、もしかして、ユーリ──?」