闇が渦巻く世界の果てで
(二)
「何──────コレ────」
私は呆然と声を出した。
何も、ない
「ひ、ろ──?雲嵐さん──?快斗さん──?────ネロさん‼︎レオンさん‼︎天陽さん‼︎レン様──ユーリ兄様‼︎」
悲惨な惨状に、誰がどれかも分からなかった。
そして遠くから、少しずつ近づいてくる足音。
私は走った。
とにかく逃げた。
ただ、本当に────
どこにも何もない。
誰もいない。
「嘘────」
何の建物もない。
道にはただただぐちゃぐちゃになった真っ赤の物が広がってるだけ。
色々な所からする鉄のような血の匂い。
「ユカ───」
そして後ろから伸びてくる手に捕まった。
「離して‼︎近寄らないで‼︎」
手に魔力を込めて無理やり振り払い、私は目の前で笑顔を浮かべているトール兄様を見つめた。
兄様──?
こんな人が?
正気じゃない。
こんな人が、お兄様な訳がない。
「逃げないでよ。まぁどうせ逃げれないけど。君を縛っていたストライアなんていう王国も、君の周りにいた害虫も、もう全部存在しないんだ。これで───俺と君はこの世界で2人っきりだ」
嬉しそうに微笑む目の前の悪魔から、数歩退く。
「ねぇ───なんで逃げるの?俺はこんなにも君を思ってるのに。俺はこんなにも君を愛してるのに」
「っ──────私は、あんたなんか大嫌い‼︎」
私の言葉に、トールさんは笑顔を消す。
「俺はね、決めたんだよ。君を薬で操ったり、洗脳したりなんてもうしない。君が本心から俺と一緒にいたいって思えるように、ずっとずっと調教してあげる」
そう言ったトールさんは、私を魔力で縛りつけた。
「どうせ2人っきりなんだ。どこでやっても問題ないし、時間は無限にある」
そう言うと彼は不気味に微笑む。
「クズの害虫たちをたくさん殺したこの場所で、ユカと一つになるのも悪くないね」
「んんっ──────‼︎」
いきなりキスされてから、太ももを触られる。
抵抗しようとしても、縛られてるせいで動くことはできないし、どれだけ魔力を使っても、格上の相手には届きはしない。
「ユカ───大好きだよ」
必死に抵抗しても、拒絶しても、何事もなかったかのように──────