愛しているから 好きにしろ
 
 先輩と彼女の手が触れた。
 また、私の胸の中でチリッとする。

 私がぼうっとしていると、後ろから声をかけられた。
 「君、榊さんのとこのライター?はじめて見たけど、最近入ったの?」

 いかした青年が私に話しかけてくる。
 「え?そ、そうです」
 「ふーん。俺は、ここのもの」

 そう言うと、ぶら下げているプレス証を見せてくれた。
 テレビ会社の人だ。
 「君、かわいいね。このあと、仕事終わり?よかったらお茶でもどう?」

 えー?こんなところでナンパって出来るの?
 「いえ、戻って記事仕上げないといけないので」
 「そう、じゃ連絡先交換しようよ。僕も知っている情報君に教えてあげるからさ」
 「……」

 呆れて彼の顔を眺める。
 首を横にかしげて不思議そうに私を見ている。

 何が不思議なのよ。
 連絡先なんて教えるはずないでしょうが。

 すると、私の腕を強い力で引っ張る人がいる。
 振り返ると、え?

 「君は、きちんと取材証をつけていないようだな。こちらに来てもらおう」
 そう言うと、私の腕をぐいっとつかんで先輩が進んでいく。
 どこ行くの?みんな見てるよ。

 広間を出て、ホテルの廊下へ。右に曲がり、ホテルの一室に連れ込まれる。
 ガチャン。後ろ手に鍵をした怖い顔をした人が私を睨んでいる。

 「さあ、君はどこの会社の誰かな?」
 え?気づいてないのに引っ張ってきたの?
 もしかして本当に摘発されてる?

 今日は潜入だったから名札わざとつけてないんだよね。
 取材対象者には名乗ってからチラッと平野奈由と書いた取材証を見せていた。

 
< 100 / 151 >

この作品をシェア

pagetop