愛しているから 好きにしろ
「やだ、先輩。どうして先に言ってくれないんですか?」
慌てて、もじもじする私を横目で見ながら、紹介してくれる。
「挨拶が遅れて申し訳なかったね。私が達也の父です。君たちが大学時代働いていたレストランチェーンの社長をしているんだよ。奈由さん、三橋に来る決心をしてくれてありがとう。達也の兄は私の跡を継ぐ予定だが、所詮父のグループの子会社にすぎない。達也は弟なのだが、兄よりも出世してしまう。うちも複雑だが、いずれ達也は兄のところと養子縁組をする予定なんだ。そのこともあって、説明させて頂く必要があるので今日同行させてもらった」
そうだったの?
先輩を睨むと、知らぬ顔をしている。
卑怯者め。後で許さん。
娘さんを下さいという、例の台詞は前にも聞いたなぁとか、父が言って大笑い。
ひどい。大切な話なのに。
この人達、当事者抜きでなにやってんのよ。
「奈由。あんた、はめられたわね」
姉の小さなつぶやきが胸に響く。
まったくだ。どう考えても、周りから固められて動けなくされた感が満載。
父が、確認するようにお父様と先輩に順々に問いただした。
「申し訳ないが、酒が入る前に確認させて下さい」
お父様に向かって話す。
「本家に養子として達也君が入って、長男である息子さんはそのこと納得されているんですか?言いづらいのですが、言わせて下さい。私達世代がいなくなってから、お兄さん一家と遺産相続や訴訟になったりしないですよね?」
今度は先輩を見ながら話す。
「達也君。言いたくないが、お兄さんのはなしは聞いてなかった。奈由がそのことで不幸になったら目も当てられない。金も名誉も関係ない。奈由は私の大切な娘ですから」