愛しているから 好きにしろ
お父様と先輩はびっくりしたような顔で私を見つめると、ふいに同じ顔をして笑い出した。
「奈由さん。あー、これか。親父がいつも話してる、仁王立ちで威嚇された話」
「奈由。覚えてる?バイト先で爺さんが訪ねてきて初めて会わせたとき。同じように仁王立ちして怒っただろ。爺さんはそれに一目惚れしてお前が好きになったらしい」
は?どういうことなんだ。
恥ずかしくて、親も私も真っ赤になって下を向く。
「奈由。なにかやらかしたのか?」
父が小さい声で聞く。
「……何もしてない。注意しただけ」
私が言い返す。
「要はそうやって、偉そうに注意したわけだな」
「……そんなつもりはなかったの」
母は、はーっとため息をつき、しょうがないわね、と小さくつぶやいた。
「ところで、聞いてもいいですか?」
姉が突然話に割って入った。
「大きな家の奥様になる妹は仕事を辞めて、三橋さんの家のことをやることになるんですか?」
よくぞ聞いてくれました、お姉ちゃん。さすがです。
先輩が姉や親を見ながら話す。
「それについては、そんなつもりはありません。奈由本人の考えに任せますが、おっしゃるとおり、家のことも普通の家ではないので結構すべきことがあるかと思います。また、子供が出来れば時間もなくなる。彼女の希望に沿って、僕はサポートをしていきます。仕事をしたければそのように環境を整える必要もあります。ただ、奈由」
「何ですか?」
「分かっておいて欲しいが、大きなグループ会社の経営をしているんだから、社員の生活全てを守る覚悟がいる。君はそのために社交界のような会社の妻が集まるところにも行かなければならないときが来るだろう。その覚悟はしておいてくれ」