愛しているから 好きにしろ
「あの。榊ライターズの平野ですけど」
「え?平野さん?嘘、どうしたのその格好。何かやたら綺麗だけど。っていうか今日何かあったっけ?」
「えーと。こちらに来る用事があったので、もしこの間の資料出来ているようなら頂きたいなあなんて思って、寄らせて頂きました。すみません、お仕事中に」
気づくと、周りがこちらを凝視している。
え?
「えーと。本部長なんでしょうか?」
篠田さんを凝視する視線の頂点にいる達也君は篠田さんに近づいた。
「いや。いつも奈由が世話になりすまないな」
「は?え?」
篠田さんは、びっくりした表情で私の顔と達也君の顔を交互に見ている。
「もう、達也君は黙ってて」
いけない。
みんな静かになってしまった。
「ひ、平野さん。どういうこと?」
青い顔をした篠田さんが恐る恐る私に聞いてきた。
「……」
私は、言っていいのか悪いのかわからず、達也君の顔を見た。
あきれかえった達也君の目が私を見ている。
「業務部の皆さん。今日連れてきた榊ライターズの平野奈由は、俺の婚約者です。今月末には結納の予定ですので、よろしくお願いします。今まで皆さんに黙っていてすみませんでした。いつもよくしてもらっていたようで、奈由は楽しく仕事をしていました。これからは、こちらの取材は身内なのでしなくなります。ただ、私の妻になるので、今後もよろしく頼みます」