愛しているから 好きにしろ
 
 「はー疲れた。奈由、行くぞ」

 戻ってきた達也君は私の顔をのぞき込んで言った。


 「……」

 「どうした?何かあったのか?」

 「……達也君。私のこといつも男の人をたぶらかすとか言って、浮気者みたいに言ってたけど、達也君はもーっと浮気者だったんだね。よーくわかった」

 「は?何の話をしてるんだ?」

 「優しくて、可愛くて、大人しくて。そういう子がいいんでしょ?」


 目を見開いて固まる達也君。

 「……な、何を言ってんだよ。それは、聞かれたら適当に答えるのが普通だろう。お前だってイケメンとか言ってるんだろ?」

 「……私、イケメンが別に好きではありませんけど。言ったこともありませんけど」

 「……」

 「それに。仕事以外で女性社員と差しでお食事に行ったりするんですね?その人が達也君を好きだって分かっていても」

 「おい。何を言ってるんだ。別にそういうつもりで行ってない」

 「そりゃあそうでしょう。そういうつもりで行っていたんだとしたら、私、結婚はしませんから。これからでもお断りです」

 気づくと周りが静かになってる。

 達也君は私の手を引っ張ると、このフロアから逃げ出した。

 無言の私の手を引いて、すごい勢いで役員フロアへ上がっていく。
 エレベーターでも他の人が乗ろうとしても、扉閉めてしまう。
 そんなことしていいの?

 
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