愛しているから 好きにしろ
 
 「はい。三橋です。はい、はい。ああ、わかった。すぐに行く。あ、少し待ってくれ。奈由を送っていくから」

 「独りで帰る」

 私はそう言うと、鍵を開けて、走って出た。

 追いかけてこられそうなので、キョロキョロしてとりあえず、非常階段へ。

 この会社一度だけ来たことがあるんだよね。

 非常階段の方から業務用のエレベーターがあるの知ってるんだ。

 終業時とかに使われてる。

 探しに来ると思ったから、業務用エレベーターの方に行き、しばらく隠れていた。

 二十分くらい経ったところで、そのエレベーターから降りて帰った。


 携帯の着信音がうるさい。

 達也君だ。面倒だから、電源落とす。

 とりあえず、仕事用の携帯はそのまま持ってないとまずいから、マナーモードにしておく。

 そうそう、仕事。今日も半休しているし、原稿書かないと間に合わなくなる。

 とりあえず、家に帰ると達也君に見つかってうるさいから、今日は詩乃のところに逃げよう。

 詩乃の新しい家はまだ知らないはず。少しは反省するといいんだ。

 私のことばかり、いつも怒ってた。男の人と取材で差しで飲みに行ったときとか、帰ったら怒った達也君に監禁されかけたこともある。自分のことは棚に上げてなんなのよ。

 とりあえず、詩乃に電話する。

 今日はヒデ君が出張だそうな。泊めてもらおうっと。

 その時は、それがどんなに騒ぎになるか、考えてもいなかった。

 
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