愛しているから 好きにしろ

「……なにそれ。」

 詩乃は私に向き直って言った。

 
 「……奈由。さっき聞こえたけど、チーフはあんたを将来の嫁候補として口説いてるの?」

 「……。」
 
 「奈由?」

 「……もういやだ。どうでもいい。とにかく関係ない。」
 
 「奈由。気持ちは分かるけど、蛇に睨まれた蛙だよ、すでに……やだ、泣かないでよ。大丈夫だよ。」
 
 しくしく泣き出した私を抱きしめて背中を撫でてくれる。


 「……ったく。チーフには私からひとこと言っといてあげるから、今日は帰りな。奈由を傷つけるなって言ったのに、許さん。」

 先に戻るねと言って、詩乃は出て行った。


 私は、更衣室の自分のロッカーをあけて、扉の鏡を見る。

 目が真っ赤。とても働ける感じじゃない。

 すぐに着替えて、外に出た。


 まだ、車は止まっている。

 運転手にまたお辞儀されたけど、頭来て無視しちゃった。

 家に帰って、布団をかぶってすぐに寝てしまった。

 
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