愛しているから 好きにしろ
「……あの。今回の記事二本も飯田さんの名前になる予定だったんですよね?」
「いや、そんなことはもう起きないよ。飯田にも強く指導したから。」
はははと乾いた笑いが榊さんの口から漏れた。
「編集長。同業他社の代表として一言。貴方が確認せず記事を出した場合、全部貴方の責任ですよ。飯田君が何をしようと、止めればいいことだ。彼女は入社四年目に入るところ。ようやく記事を任せられてきてあなたたちに意見出来る立場ではなかったんだろう。さすがに、彼女も今回の二本の記事の扱いによっては考えていたことがあったようだ。」
編集長は榊さんをにらみつけた。
「榊君。君の会社の業績はわかっているが、ここでは君のやり方が正しいわけじゃない。この会社も少ない人数で連載をいくつも抱えているんだ。考えていることもある。口出しは無用だ。私が君の会社のやり方に抗議したらどう思う?」
雰囲気が悪い。私は割って入った。
「あの、編集長。育てて頂いたのはありがたく思っています。ただ、榊さんの記事に前から惹かれていて、お誘い頂いたのは私にとって大変な名誉です。今まで育てて頂いた恩はこれから記事でお返ししていきます。退社させていただけませんか?」
「平野さん。退社してどうやって私に恩を返すと言うんだね?今後手柄を全部榊君に取られてしまう私はどうしたらいいんだね?」
「……あの、あのそれは……」
しどろもどろの私をじろりと編集長が見る。
黙って腕組みをして後ろで聞いていた先輩が一言つぶやいた。
「失礼。他業種ですが、私の顔を知らないということは、編集長はあまりフード関係の記事を取材されていないようですね。」