囚われのシンデレラーafter storyー
それから、感じの良い雰囲気とは似合わず黙り続け、それどころかその表情がみるみる青ざめていく。
「あ、あの。楽器……」
この雰囲気も気詰りで、声をかけてみることにした。
「……え?」
「背中にケースを背負っているから。何か楽器をされているんですか?」
私の言葉に、ようやく気付き無理やりに笑顔を作ろうとしているみたいだけど、それはどう見ても笑顔にはなっていない。
「は、はい。バイオリンです」
「バイオリンか。素敵ですね。こちらには観光で? それとも、留学とか……?」
何に緊張しているのか分からないけれど、それをほぐすためにも極力和やかに会話を続ける。
「い、いえ――」
その横顔を見つめる。
可愛らしいけど、少し伏せられた目をした表情は、一気にその雰囲気を変える。
こういうのを、作り込まれていない綺麗さって言うのだろうか。
でも。その表情を見つめていて、何かが引っ掛かる。
さっき感じた違和感。
一瞬、どこかで会ったことがあったかと考えてみたけれど。
確かに、どこか見覚えがあるようなないような――。
思い出せなくてもやもやとする。
そんなに距離もないから、すぐにアパルトマンの前まで来た。
「その名前のアパルトマン、ここで大丈夫だと思いますが、来たところと同じですか?」
笑顔で問い掛けると、何かを思いつめたような表情になっている。
「はい、ここで間違いないです。ありがとうございます。本当に助かりました」
「いえ。じゃあ――」
少し頭を下げて、管理人を呼び出すためにインターホンを鳴らそうとした時だった。
「あの、すみません……っ!」
「は、はい?」
あまりに悲壮感に満ちた声で呼び止められて、思わずのけぞりそうになってしまった。
「も、もし違っていたらすみません。クラウンホテルの方……ですか?」
「え……?」
今度は私が驚く番だった。
「そ、そうですけど、どうして……?」
「もしかして、ここにいらしたのは、西園寺さんにご用があって、ですか?」
え――?
西園寺さんって……。
もしかして――。
もう一度改めて、その女性の顔を見た。