囚われのシンデレラーafter storyー
「もしかして……」
アズサさん――?
バイオリンケースを背負って、何年も大事に使っていそうなバッグを肩から斜めに掛けて。無造作に結んだ髪と、薄いメイク。洗いざらしのシャツにジーンズというシンプルなスタイルだけど、すらりとしたスタイルだからそれも映える。
こうして改めて見つめると、やっぱり綺麗な人なんだと分かる。
外を着飾る必要なんてない。自然とその身体から滲み出る光みたいなものを感じて、思わずふっと肩から力が抜けてしまった。
もし、あのマネージャー室で西園寺さんに完膚なきまでに振られていなかったら。少しでも曖昧にかわされたりしていたら、私はここでどうしていただろう。
この人を、陥れようとしただろうか。
馬鹿なことをしていたかもしれない。
でも。今の私は、この人を前にして、ただただ自分の愚かさと恥ずかしさに直面させられている。
そんな風に追い詰められたみたいな顔をしているのは、私がここに来ているのを見て何かあらぬ想像をしているからだろうか。
それでも、その心の中でいろんなことを考え葛藤している――。
「もしかして、西園寺さんの……お付き合いされている方ですか?」
私の言葉に、よりその表情が強張った。
「私、西園寺さんの部下です。西園寺さんがオフィスに資料をお忘れになっていたので、帰りにここに寄って届けに来て。管理人室に預けることになっているんです。いつも、西園寺さんにはお世話になっております」
私が頭を下げると、突然彼女が大きく息を吐き胸に手を当てた。
そして、膝に手を置いて深呼吸していた。
「いきなり不躾なこと聞いたりして、本当に、申し訳ありませんでした」
彼女が何度も頭を下げる。
仕事が終わった後に、同僚の女が一人でアパルトマンに訪ねて来たりしたら、不安にもなるだろう。
今にも死にそうな顔をしていたのに心からホッとしている姿を見ると、つい言ってしまいたくなった。
「――だからなんですね。珍しく、今日、西園寺さんが大事な資料置き忘れて帰ったりして、皆で不思議に思っていたんです。あなたがいらっしゃるからだったんですね」
「え……?」
「飛んで帰ったらしいですよ? それなのに、あなたを道に迷わせて、今、どこにいるんでしょうか」
「私が、勝手に来てしまったんです。仕事の邪魔になってはいけないなって思ったんですけど、余計にご迷惑をおかけしてしまったみたいで」
恐縮する姿に、しみじみと見つめてしまう。
ホント、笑ってしまいたい。
知らないのをいいことに、私はこの人と勝手に張り合おうとしたのか。
毒気なんてまるでない素直な表情と、一瞬垣間見せるはっとする表情と。
西園寺さんが心から愛している人。大切に大切に守りたい人。
ほんの少しも苦しませたくないと思う人。