囚われのシンデレラーafter storyー
「あなたのことになると、いつもの西園寺さんじゃなくなるんですね。表情一つ変えずにどんな仕事もこなしてるのに、同僚同士の飲み会なんかであなたの話をする時は、本当に優しそうな顔になるんですよ? いや、あれはデレデレとも言いますね」
今度は、その顔を真っ赤にした。
「……あなたを見て、納得です」
こんな人がいたら、何があっても失いたくないだろう。大切にしたくなる。
この人の表情のせいで、自分からも嘘みたいに毒気が抜けて行くのが分かった。
「そうだ。管理人さんに預けようと思ったんですけど、あなたにお渡ししてもいいですか?」
そう言って資料をバッグから取り出した。
「同僚が届けに来たとお伝えください――」
あ……。
手渡す時、突然、ふっと頭の中のモヤモヤが晴れて視界が鮮明になった。
「……もしかして、進藤あずささんじゃないですか?」
見覚えのある顔、バイオリン、あずさ――。
すべてのピースが一致して。した途端に、呆然とした。
「……え、ええ」
「テレビで見ました。有名な国際コンクールで賞をとった、進藤あずささん!」
そうだ。まだ日本にいた頃、たまたま観ていた朝の情報番組で流れたニュース。
だから、どこかで見た記憶があったのだ。
舞台の上で演奏する映像と、目の前にいる彼女の雰囲気があまりに違うからすぐには気付かなかった。
本当に、私って――。
もう、ハンマーで殴り付けたい。
何度目の消滅願望だろう。
「はい……」
あずささんは、頷くと少し照れくさそうにはにかんだ。
「凄いですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「これからも頑張ってください」
「……はい。頑張ります」
今度は少しきりっとした笑みでそう答えてくれた。
ここに長居してしまっていることに気付く。
これ以上ここにいて、西園寺さんと鉢合わせても困る。
「じゃあ、私はこれで」
「本当にありがとうございました。助けていただいて、感謝しています」
「いえ――」
笑顔で別れようとした時、一台のタクシーがアパルトマンの前に止まった。