囚われのシンデレラーafter storyー


 早く――なんて願うまでもなく、パリへの渡航と日本へ帰国する準備、コンクールのことで取材を受けたりしていたら、夏季休暇前の授業最終日はすぐにやって来た。

この日、同じ門下の子たちが企画して、私のためにお祝いの会を開いてくれることになっていた。

ありがたいことに、先生からその会場にとご自宅を提供してくれたらしい。

有志10人くらいがそこに集まった。


「――アズサのチャイコフスキー3位に乾杯! それから、偉大なる我がロシアの誇り、チャイコフスキーに乾杯!」

ビールを口にしてから、集まった人たちに「ありがとう」と言った。

「みんなも、アズサに続くようにしっかり精進しなさい。この音楽院に遊びに来た奴なんていないはずだからな」

先生が学生たちに叱咤する。

「もちろんです、先生。次は、私の番です」
「いや、僕が先だ」

ここにいる皆が、それぞれにコンクールを目指している。

会の最初のうちは、いろんな人からお祝いの言葉を送られそれに応えていた。
でも、時間と共に会話の内容は深くなって行く。

「アズサ。日本のレコード会社から連絡来たんでしょう? もしかして、CDデビュー?」
「まだ詳しいことは分からない。ちょうど夏休みに帰国するから、そこでレコード会社の人と話をすることになってる」

コンクールが終わってすぐ、レコード会社から連絡が来た時には本当にびっくりした。これが、大きなコンクールに入賞するということなんだと実感した。

「さすが、チャイコフスキー3位だよね。日本人の入賞者はアズサだけだったし。それに、アズサ、綺麗だから。今の時代、ビジュアルがいいのは絶対に有利」
「コンサートに男を呼べる!」

私をそっちのけで勝手なことを言っている彼女たちを、苦笑いしながら見つめる。私より若い子ばかりだから致し方ない。

「男と言えば――」

一人の子が、ニヤリとしながら私に視線を向けた。

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