囚われのシンデレラーafter storyー
「あずさ!」
後部座席のドアが開くなり、西園寺さんが現れてその名を呼んだ。
「佳孝さん――」
西園寺さんの姿を見て、彼女の表情が嬉しそうに変わる。
「君……ここで、何をしてる?」
強張った声が、この場の雰囲気を一変させた。
その目は、完全に私を警戒し怒りを滲ませる。
「あの、すみません、私――」
「佳孝さん! この方が、私が道に迷っていたら助けてくださってここまで案内してくれたの。資料、佳孝さんが忘れたのを届けてくださったんですよ」
すぐさま、あずささんが事情を説明してくれていた。
「まず、お礼を言うのが先じゃないですか」
「あ、ああ……そうだな」
西園寺さんが、あずささんの言葉にハッとしたように、その表情を少し緩めた。
「君が届けてくれたのか。ありがとう」
彼女の前で見せる顔。
完全にその鋭さが消えたわけではないけれど、その冷たさは隠したい。
そんな思いが見て取れた。
「いえ。では、私はこれで失礼致します」
頭を下げすぐに踵を返した。
「――彼女を助けてくれてありがとう」
背中に投げ掛けられた言葉に思わず振り向くと、西園寺さんとあずささんが二人並んで立ち私を見ていた。
あずささんがもう一度私に頭を下げる。
私もそれに応えるように彼女に深く頭を下げ、再び前を見た。
「あずさ……、あんまり俺を驚かせるな」
背後から、電話している西園寺さんからしか聞くことのなかった甘い声が聞こえて来る。
「ごめんなさい。でも、ちゃんと、メールしましたよ?」
「最初の一文で驚いて、飛び出してしまった」
「もう……。でも、私が急に来たりしたからですよね。ごめんなさい」
「いや。やっぱり、嬉し過ぎて、慌てた俺が悪いな」
笑い合う声が扉が閉まる音と共に消えた。
夏のパリの空は、まだ暗くならない。家に着くまでの道を、明るい空の中で歩いた。