囚われのシンデレラーafter storyー
「野田さんが、佳孝さんのアパルトマンに行くところだったって聞いて、怖くなっちゃって。ホント、馬鹿でしょう? よく考えれば、何もあるはずないって分かることなのにね。勝手に馬鹿な妄想して失礼な態度を取って、あなたの部下なのに……私のこと、怒ってもいいよ」
「あずさ……」
「それって、一瞬でも佳孝さんを疑ってしまったということだよね。女って欲張りだね。こんな風に抱きしめてもらえれば、すぐに分るのに」
枕に顔を埋めたあずさをそっと抱き寄せた。
「確かに、俺のことを一瞬でも疑ったのはいただけないな」
「ごめんなさい」
「でも、素直に打ち明けるあずさが可愛いから許す」
あずさが枕から顔を上げた。
「これからも、そうやって何でも言ってくれ。いつも離れているんだ。一人で不安を抱えていては辛くなるだけだ」
「はい。でも、もう大丈夫。野田さん、本当に素敵な人でした」
「……そうか」
「だから、少し自己嫌悪です」
その目を伏せつつ笑うあずさに、少し胸が痛んだ。
「大丈夫だ。彼女は何も気にしていないよ」
「佳孝さんにそう言ってもらえると、少し安心します」
あずさを優しく見つめ、その髪を撫でる。
そうしたら、少しほっとしたように表情を緩めた。
あずさは何も知らなくていい。
本当は何があったかも。俺があんなにも冷たい目をしてしまえることも。
あずさを苦しめる芽になりそうなものは、それが俺の勘違いだろうが小さかろうがさっさと踏み潰す。
気付かないで放置して、俺の知らないうちに巨大化してあずさの前に現れたりしないように――。
女になど、嫌われるくらいでちょうどいい。
女だけではない。悪意あるものすべてを排除する。
俺にすべてを委ねるように寄り添うあずさの背中をゆっくりとさする。
葛藤――それが完全になくなったわけじゃない。俺の抱えているものは決して軽くはない。
でも、こうしてあずさといることに決めたのだ。三度目を最後にしたい。もう、あずさを手放すことなんて出来ない。
柔らかな表情で目を閉じるあずさの額に唇を寄せる。
あずさにだけは、すべてを包み込める優しい男でいたい。あずさが、俺といて幸せだと思えるように。
これまでたくさん泣かせたから。ただ、笑顔でいさせたいんだ――。