囚われのシンデレラーafter storyー
明日、朝早く、あずさは帰ってしまう――。
会えないはずだったのが、思いもかけずに会えた。それは最高のサプライズだった。
年甲斐もなく、喜びで一杯になって浮かれて。
でも、時間は限られている。
不意に訪れた喜びは、そのまま、寂しさに裏返る。
「佳孝さん、今度、モンサンミッシェルに行ってみたいんです」
「ちょうど、あずさと一緒に行きたいと思っていたんだ。朝の姿も夜の姿も見せたい。一泊で行こう」
「やった!」
「車、一人の時は必要ないと思っていたけど、この際買ってしまおうかな」
こうして二人で夕飯を食べていながら、二人でいられる時間を逆算し始めたあたりから笑顔は作るものになっていた。
そうしていないと、すぐにでもその腕を掴んでしまいそうになる。
笑顔の精度を上げるため、ワインばかりが進んでいた。
飲んでも飲んでも、心に忍び寄る寂しさは紛れてはくれない。
確かに、あずさと別れる前はいつも寂しい。
なのに、今日はいつも以上に切ない――。
「佳孝さんもモスクワにも来てください。モスクワの街も二人で行きたいところたくさんあるの」
「俺もそろそろ休みが取れるから、今度は俺があずさに会いに行く」
そうだ。
会おうと思えば、もう会えるのだ。
いざとなれば、すぐに会いに行けるのに。
どうしてこんなにも感情的になってしまったのか――。
「――うん。待ってます」
はしゃいで見せたかと思ったら、そんな風に大人の女の顔で目を伏せる。
目の前のあずさが、会うたびに綺麗になって行くから。衝動のように捕まえておきたいと思ってしまう。
7月初旬に、一週間も濃密な時間を過ごした後の、その後の一人の時間を知ってしまったから。あの落差が蘇って、時間に抗うように心が掻き立てられる。
食事を終えて、いつも以上に飲んでしまった身体は火照って仕方がなかった。
焦燥感に追い立てられて作った笑顔も消え去って、何故かレストランを出た時から黙りこくっていたあずさを帰宅するなり抱きしめる。
明日の朝にはここからいなくなる身体を、少しも離していたくなかった。
抱きしめる手につい力が入ってしまう。