囚われのシンデレラーafter storyー
こんな風に、二人で遠い異国の地にいれば、不都合なことは忘れてしまいそうになる。
あずさと二人、あずさのことだけを見つめ、あずさも俺だけのことを考え、難しい現実はどこか遠くにあって笑い合える。
でも、見えないだけで、なくなったわけではない。
翌朝早くアパルトマンを出て、あずさを空港へと送った。
「――佳孝さんの33歳の誕生日は、絶対に一緒に祝いましょうね!」
出国ロビーで、あずさが突然そんなことを言い出した。
「俺の誕生日? また、それは気が早いな」
12月1日だ。まだ3カ月以上ある。
「だって――」
俺に振り返り、あずさが真正面に立った。
「これまで、一度も佳孝さんの誕生日を祝ったことがないんですよ。それがずっと心残りだったから」
もう何年も、自分の誕生日なんて気にしたことはなかった。いつも、気付けば終わっていた。
「そんなこと言ったら、あずさの誕生日だって一度しか祝えなかった」
「その一度が、私にとって、どれだけ宝物みたいな日だったか。その日は凄く特別だった。佳孝さんと恋人になれた日だから」
俺があずさに恋をして。
人生で初めて、自ら想いを告げた日だ。
あんなに緊張した日はなかったかもしれない。
「今年からは、毎年一緒に祝おうね」
あずさがにこりと笑う。
「あずさの誕生日もな」
「はい」
希望に満ちた笑顔が、俺に大きく手を振る。
「じゃあ、来月に」
「ああ。会いに行くよ」
もう、ミント色ではなくなっているバイオリンケースが小さくなった。