囚われのシンデレラーafter storyー
”……それと。すみません。私、進藤あずささんのことを調べてみたんです”
”え……?”
その表情が変わる。
”ネットで少し検索したら、インタビュー記事が出て来て……。
なんだか、いろいろ考えさせられました。初めて、自分のことを振り返って。ここであなたにあんなことをしてご迷惑をおかけして……30になるまで何やって来たのかと、情けなくなりました。進藤さんも同じ年齢だと知って余計に”
彼女がふっと息を吐き、苦笑した。
"決して恵まれた環境でバイオリンをしていた訳ではなくて、お父様を亡くされて一度は挫折して諦めて。それでも再び夢を掴むために決断した――”
コンクールの時の、あずさの記事か。
”周囲は若い人ばかりの中で、見知らぬ土地に飛び込んで。目標を達成されたんですよね”
俺はただ、黙って聞いていた。
”――進藤さん、CDも出るんですね。コンサートも決定したというような記事も見ました。この前お会いした姿と、ネットで見た写真の雰囲気が全然違うのでびっくりしました。これからが楽しみですね”
”……ああ”
"記事のコメント欄に、さっそく「綺麗な人だ」って書かれていましたよ? 実力も申し分なくて美しいなんて、人気が出るのも時間の問題ですね"
野田が出て行った後、椅子をくるりと回し、窓の向こうのパリの景色を見つめた。
あずさは、俺だけが知っていたあずさじゃなくなる。こうやって、いろんな人に知られて、世間に認知されて行くんだ。
俺はこれから、いろんなことを覚悟しなくてはいけないのかもしれない。
そして、そのたびに試されるんだ。
この、焦がれてたまらない想いを、どこまで冷静にコントロール出来るのか。
あずさの、飾らない笑顔が不意に浮かぶ。
離れていても大丈夫だよと、微笑んでくれているみたいに――。