囚われのシンデレラーafter storyー


”……それと。すみません。私、進藤あずささんのことを調べてみたんです”
”え……?”

その表情が変わる。

”ネットで少し検索したら、インタビュー記事が出て来て……。
なんだか、いろいろ考えさせられました。初めて、自分のことを振り返って。ここであなたにあんなことをしてご迷惑をおかけして……30になるまで何やって来たのかと、情けなくなりました。進藤さんも同じ年齢だと知って余計に”

彼女がふっと息を吐き、苦笑した。

"決して恵まれた環境でバイオリンをしていた訳ではなくて、お父様を亡くされて一度は挫折して諦めて。それでも再び夢を掴むために決断した――”

コンクールの時の、あずさの記事か。

”周囲は若い人ばかりの中で、見知らぬ土地に飛び込んで。目標を達成されたんですよね”

俺はただ、黙って聞いていた。

”――進藤さん、CDも出るんですね。コンサートも決定したというような記事も見ました。この前お会いした姿と、ネットで見た写真の雰囲気が全然違うのでびっくりしました。これからが楽しみですね”
”……ああ”
"記事のコメント欄に、さっそく「綺麗な人だ」って書かれていましたよ? 実力も申し分なくて美しいなんて、人気が出るのも時間の問題ですね"



 野田が出て行った後、椅子をくるりと回し、窓の向こうのパリの景色を見つめた。

 あずさは、俺だけが知っていたあずさじゃなくなる。こうやって、いろんな人に知られて、世間に認知されて行くんだ。

 俺はこれから、いろんなことを覚悟しなくてはいけないのかもしれない。

 そして、そのたびに試されるんだ。
 この、焦がれてたまらない想いを、どこまで冷静にコントロール出来るのか。


 あずさの、飾らない笑顔が不意に浮かぶ。

離れていても大丈夫だよと、微笑んでくれているみたいに――。

< 134 / 279 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop