囚われのシンデレラーafter storyー
4 踏み出し始める新しい世界
9月に入って、学校も始まりコンクール以前の生活に戻っていた。
授業とレッスンを受け、あとはひたすら練習。
ただ一つ違うとしたら、それ以外に仕事があること。
音楽を学んでいる者として、音楽で収入を得られるということはとてもありがたいことだ。自分の足でようやく音楽の世界に立ち始めることが出来た。
私のことを知らなかった人が、コンクールの結果から期待をして、私の演奏を聴きに来る――。
そこで、期待外れの演奏をすればもう誰も次に聴きたいとは思わない。そこで終わりだ。
コンクール以上の演奏をしなければ、演奏の仕事で生きて行くことはない。
巨匠でも一流演奏者でもない新人にとって、与えられた舞台一つ一つがコンクールの予選みたいなものだ。失敗すれば次はない。
音楽院の練習室を出て、寮に戻ろうとしたところだった。
「――アズサ。今までずっと練習?」
廊下でマルクに出くわした。
あの夏季休暇前の告白から、何度か顔を見てはいたけれど、こうしてちゃんと向き合うのは初めてだった。
「うん」
「タイトル取っても、アズサは相変わらずだな」
マルクが笑った。
「まあね。結局、練習していないと落ち着かないの。じゃあ、また――」
「こんな時間だ。危ないから、寮まで送ろうか」
「え――?」
別れようとした時、引き留めるように声を投げかけられた。
「な、何言ってるの。いつもこの時間でも自分で帰ってるよ」
遅くまで練習することなんて、いつものことだ。そんなことを言われたことはない。
「そんなに警戒するなよ。ただのボディーガードだよ」
「別にそういうわけじゃないけど。大丈夫。寮はすぐそこだし。じゃあ、急ぐからまたね」
それ以上マルクに何も言わせないように、すぐさま背を向けて走り出す。