囚われのシンデレラーafter storyー


 寮の部屋に着くなり、共同のシャワー室に行く。
 
 部屋に戻って、佳孝さんに電話をしようとしたらスマホが光り出した。

植原(うえはら)です。今、話しても大丈夫?)

電話の相手は、所属しているK音楽事務所の植原さんだった。私の担当をしてくれている5歳ほど年上の女性だ。

「はい。大丈夫です。どうしたんですか?」

(あのね、急で本当に申し訳ないんだけれど。松澤さんの都合で、東京での顔合わせの日程を早めることになって。なんとか都合をつけてもらえる? あちらが、9月13日頃がいいと言っているんだけど)

11月と12月のコンサートで指揮を振る、松澤さん――。

当初は9月下旬の予定だった。

「えっと――」

9月13日。それは、佳孝さんがモスクワに来ることになっている2日前だった。

「それは、どうしても――ですよね……」

(そう。おうかがいじゃなくて、都合つけてっていう話。どうしても、新人演奏家のこっちの方が立場は下だからね。松澤さんも忙しい人だから。本当に、ごめんね)

それは十分過ぎるほどに理解している。

「そちらへの滞在は1日で大丈夫ですか?」

それなら、モスクワで佳孝さんと会うことは可能だ。

(そうそう。今日は、新しい仕事依頼でも連絡したのよ。ちょうど、その時に雑誌の取材と、テレビの生放送の情報番組に出演する話が決まって。せっかく東京に来るから、いろいろ詰め込んだの。一週間くらいは見てくれるかな)

「え……っ」

返事に詰まってしまった。



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