囚われのシンデレラーafter storyー
(テレビの話はうちの社長がもぎ取って来たのよ。つまり、今一番あなたを推しているってこと。コンクールが終わって間もない今が大事なのよ。話題性を作るには畳みかける。これ鉄則。それが10月のCD発売にも関わる。そのために、すべて急ピッチで進めているからね。そのあたりは理解してほしいの。
今の時期さえ乗り切れば、ちゃんとあなたのペースを守ることは約束する)
植原さんが捲し立てた。
植原さんは、必要なことは絶対に折れないし押し通す。何でもはっきりと言う植原さんを、私は頼りにし信頼していた。
だから、それが今、大切なことなのだと分かる。
事務所も遊びじゃない。向こうもビジネスだ。一人の演奏家と契約したからには利益を産まなければならない。
「……分かりました。調整します」
(ありがとう。助かるわ。じゃあ、また近いうちに詳細のスケジュールをメールで送るから。確認してね)
「はい」
と、頭では理解していても。
はぁ……。
心は途端に重くなる。
佳孝さんに、伝えなくちゃ――。
伝えるのは一刻も早い方がいい。飛行機のチケットとホテルのキャンセルをしなければならない。
(――もしもし、あずさ?)
「ごめんなさい。遅い時間に」
(いや、大丈夫だよ。ちょうど俺も今電話しようとしていたところなんだ)
佳孝さんの、明るい声が飛び込んで来る。
(今日たまたま仕事でモスクワの人に会って。センスのいいレストランが最近オープンしたって聞いたんだ。予約を取らないと入れないっていうから予約しておいた。デザートが特に絶品らしいんだ。あずさは、甘いものに目がないもんな。あずさも、その店知ってるかな――)
「ごめんなさい!」
この声を聞くと、いつも嬉しくてたまらないのに。
(ん? どうした?)
今は、その声が苦しい。