囚われのシンデレラーafter storyー


会がお開きになり、先生の自宅を出た。
自然と同じ方向の学生で一緒に歩き始める。

「――じゃあ、僕たちはこっちだから」

分かれ道で2グループに分かれ、気付くと私とマルクの二人になっていた。

「あれ、他の子たち――」

同じ寮の子たちがいたはずだ。

「アズサ」

どこか深刻そうな声で、マルクが私の名前を呼ぶ。

「寮の前まで、送るよ。夜は危ないから」
「でも、マルクの家はあっちじゃ――」

咄嗟に声を掛けたが、もう寮の方向に向かって歩き出していた。

仕方なくその背中を追う。
なんとか隣に並んでも、マルクは無言のまま。
私も、何も言わないで歩く。

そろそろ寮の門の前というところで、マルクが突然立ち止まった。

「アズサ。あの人……ファイナルに来ていた人、アズサの恋人なんだよね」
「え……っ? ああ、うん。そう、私の大切な人」

驚きつつもはっきりと答えると、その顔を私に向けて来た。その目は、追い詰められたように苦しげだ。

「あの日から、ずっと考えていた。でも、僕の気持ちは変わらないんだ。諦めようとはどうしても思えない」
「マ、マルク――」

一歩私の方へと踏み込んで来て、思わず後ずさる。

「アズサに初めて会った日。軽い気持ちで聞いたんだ。『どうして留学しようと思ったの?』って。そうしたら、アズサは真っ直ぐな目で躊躇いなく言った。『チャイコフスキーのファイナルの舞台に立つためにモスクワ(ここ)に来たんだ』って。外見は可愛い感じなのに、その目があまりに鋭くてさ。そのギャップに心惹かれた」

ふっと息を吐くと、再び私を真っ直ぐに見つめる。

「それからは、アズサのことが気になって。毎日ストイックに努力している姿を見ていると、まるで武士みたいで。君を好きになるのに、時間はかからなかったよ」
「でも、マルク、私はあなたより10歳も年上なんだよ? その好きは、友達としてなんじゃないかな――」
「僕の気持ちも知らないで、どうして簡単にそんなことを言えるんだ?」

いつも温厚なマルクが声を上げた。

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