囚われのシンデレラーafter storyー
驚きのあまり言葉を失っていると、松澤さんがはっとしたように、私から視線を逸らした。
「……いや、なんだ。何も事情を知らないのに勝手なことを言ったな。すまない」
「いえ、いいんです」
今度は急に謝られて、手を横に振る。
他人にどう思われようと関係ない――。
佳孝さんといれば、どれだけ私のことを想ってくれているのか分かる。私が知っていればそれでいい。
「意外と松澤さんのような人の方が、本当に好きになった女性が現れたら、物凄く情熱的になったりするんでしょうね。松澤さんの”もしも”の話を聞いて、今、ちょっと、そう思いました」
音楽に対してそれだけの情熱を持てるのだから、もしかしたら、その素質を本来は持っているのかもしれない。
「……本当に、君という人は」
私の言葉に、何故か松澤さんが笑った。
「何がおかしいんですか」
「いや、何でもない、何でもない。確かに、君の言う通りかもしれないな」
一通り笑い終えると、腕を組み私を見据える。
「どうなんだ。一般論として、女性は強引に情熱的に迫られたら困るのか。それとも、嬉しいのか」
「一般論……難しいですね。結局自分に当てはめてしまうわけで」
「じゃあ、君ならどうなんだ?」
私――。
自分のことを考えれば、それはやっぱり佳孝さんとのことを思ってしまう。佳孝さんなら、強引でも情熱的でも、それはそれで嬉しい。
「相手による――ということではないでしょうか。好きな人からであれば嬉しいし、そうでない人からだと困る……それは誰だって同じではないですか」
「まあ、そうだな。ただ――」
松澤さんが椅子から立ち上がった。
「その『好き』という感情も、何かをきっかけに揺らぐこともあるかもしれない。”困る”から”嬉しい”に変わる分岐点がどこかにあって、変わることもあるかもしれない。未来はいつも不確定だ」
そう言い終えると、部屋の入口の方へと歩き出して、そしてこう言った。
「もし私なら、どんな手を使ってでも、変えてみせようとするかもな」
やっぱり、この人は情熱的な人だ――。
心の中で一人笑う。
「じゃあ、明日。オケとの合わせだ。しっかり準備しておけよ。聴衆も厳しいが、オケの人間たちも皆厳しいぞ。ダメなソリストなんて潰してやろうなんて輩もいる」
「はい。心して臨みます。今日はありがとうございました」
その背中に頭を下げた。