囚われのシンデレラーafter storyー
5 試される強さ
誰よりも、何よりも、俺にとってあずさはたまらなく大切な存在で。宝物にみたいに、キラキラと輝いて大事大事に守っていたい。
小さい子供が宝物を誰にも見つからないようにどこかへ隠してしまうみたいに、あずさも俺しか知らない場所に隠してしまえたらと思うけれど、あずさはもう、俺だけのものに隠しておけるような人ではない。
キラキラと煌めく舞台で、その魅力を最大限に輝かせる。
そんなあずさを見たかった。あずさのバイオリンの音が、どこまでも羽ばたくのを夢に描いて、誰よりもそれを応援して来た。
それは今でも変わらない。
あずさの成功は、心から嬉しいのだ。
なのに、どうして――。
どうして俺の心は、こんなにもざわざわとするのだろう。
そんな自分が、イヤで仕方ない。
* * *
「――分かった。また、時間を見つけて戻れる日を調整する。ああ、よろしく頼む」
早朝出勤前、日本からの電話を溜息混じりに切った。
着替え途中の、中途半端なネクタイをそのままにソファに深く腰を沈める。
『お父さん、また少し悪くなっているみたい。きちんと通院だけはするようにさせてるけど。こういう病気って、本当に悪くなる前に手を打った方がいいって言うでしょう? だから、お兄ちゃんも力を貸してほしいの』
妹からの電話だった。
鬱だった。
刑が確定してから執行猶予の期間も半分を終え、少しずつ自分なりに整理することが出来るようにもなってこの先を考えられるのだろうと思っていた。
それが、ここに来て、10月初旬ほどから父親が精神的に崩れ始めた。
どうして、今――。
最初はそう思ったけれど、冷静に考えてみれば、今だからこそ、なのだろう。
嵐ような激動の日々を終えて、いたずらに時間ばかりがある毎日が続いて――父は虚無感に苛まれ心がぽっきりと折れてしまった。
妹に呼ばれて急遽帰国した時に見た父は、ほんの数ヶ月の間に別人のような顔つきに変わっていた。