囚われのシンデレラーafter storyー
そんな父と、そんな父の傍でおろおろとする母親を支えているのは、妹の由羅だった。そして、細田さんも時折様子を見てくれている。
俺は遠く離れたパリにいて、妹には悪いと思っている。過去に何があろうと、親は親だ。父親が未だに俺にわだかまりがあるのは分かっている。
それでも、俺の父親だ。一生……。
ふうっと、大きく息を吐いた。
すべてを終わらせようと力を尽くしても、簡単には片付けることはできない。
それだけのことをしたのだから。
ソファから立ち上がり、身支度を整える。鏡の横に、あずさの写真がある。あずさが飾らないで欲しいと言った、マカロンを食べている無防備な顔。
本当に、子どもみたいだな――。
その写真を見ると、自然と口元が緩む。この部屋にはたくさんのあずさの写真があって、あずさがくれたマトリョーシカが並んでいる。
でも、やっぱり本物のあずさに会いたい。
この2か月半、会いたくてたまらなかった。
父親のこともあって、ただ少しでも抱き締められたらとモスクワに行こうとも思ったけれど、
この2か月の電話越しの会話で、あずさが今はバイオリンに集中したいと思っているのがひしひしと伝わって来た。
それも無理はない。あずさにとって、今がどれだけ大変で大切な時期か分かっている。
俺がしてやれることは、そんなあずさに余計な負担をかけないこと。そしてあずさを応援すること。それくらいだ。
あずさが東京公演を成功させたと知って、心から安堵し心から嬉しかった。
遠くにいて見えないあずさから聞く松澤の話に心をざわつかせても、会いたい気持ちを抑えて耐えて来た。
だからせめて――。
あずさがパリに来て、少しでも会いたいと練習場まで迎えに行くことくらいは許してほしいなんて、心の中で相手もなく弁解していた。