囚われのシンデレラーafter storyー
「今日は、早く終わったと聞いたので引き返すところです――」
「彼女から、何も聞いていないのですか?」
松澤が正面に立つなり、感情を懸命に押し殺すように抑えた声で言った。
「今日、オケの合わせの時に、彼女が倒れた」
え――?
その言葉の衝撃があまりに大きくて、すぐに理解できなかった。
でも、倒れたという意味が脳内を駆け巡り、次の瞬間には松澤に詰め寄っていた。
「あずさは? あずさは大丈夫なんですか! 今、どこに――」
「すぐに病院に運んで大事には至らなかった。今、病院から宿泊先のホテルに送り届けて来たところだ」
咎める目が向けられる。
でも、そんなことに構っていられない。
その日のうちで帰ることが出来たということは、重くはないということか。
どちらにしても、今すぐあずさのところに行かないと――。
「ありがとうございます。お世話になりました。失礼します――」
素早く頭を下げて、足早に立ち去ろうとする俺の腕が勢いよく掴まれた。
「待てよ」
不安で居ても立っても居られないのに邪魔されて。苛立ちのままに振り返ると、怒りに満ちた目があった。
「あなたに、自覚はあるのか」
一刻も早くあずさの元に向かいたいのにそれを遮られ、思わず睨み上げる。
「バイオリニストと付き合っている自覚はあるのかと言っているんだ!」
抑えていた怒りが止められなくなったみたいに声を上げ、掴んだ俺の手を振り払った。
「パリに来て、毎日彼女と会っていただろ。この一番大変な時期に、彼女を連れまわしていた。
あなと会っていたって、彼女のバイオリンは一日ごとに良くなっていた。決してバイオリンをおろそかにしていたわけじゃない。じゃあその時間はどう作っていたんだ? あんたに会う時間の分、寝る間を惜しんでいたんじゃないのか? それくらい、考えてやれないのか!」
昨日抱きしめた、細い身体。
抱き締める前にも気付いていた。
それなのに、俺は……。