囚われのシンデレラーafter storyー
6 大切で特別だった日
遅いな――。
ベッドに腰掛けて、腕時計に目をやる。
いつもなら、もうオケの練習場に迎えに来てくれている時間だ。
いまだ、佳孝さんから連絡はない。
メッセージを読んでいないのか、ちゃんと送信出来ていなかったのか。
それとも、予定外の仕事が入ってしまったのか――。
後ろに倒れて、ベッドに仰向けになった。
それにしても、今日の松澤さんにはちょっと驚かされた。
この日、2日目のオケとの合わせがあった。
2日目ということもあって、かなりスムーズに進んだ。私に対してもオケに対しても、松澤さんの指示はほとんどなくて。予定よりも早く終わることになった。
"最後に、一度通して今日は終わりにする”
松澤さんのその言葉を聞いて、私は心の中でホッとしていた。
朝から、なんとなく体調がすぐれなくて。
どこがどうというわけでもないんだけれど、なんとなく身体が重かった。
原因は、おそらく疲れから。私の緊張状態は11月の間ずっと続いていた。
早く練習が終われば、少し休める。
そして何より、今日は佳孝さんの誕生日だ。
この日を、ずっとずっと、心待ちにしていた。私にとって、特別な日だ。
二十歳になる頃に佳孝さんと出会って。
結局、この10年、私の心の中にいた人だ。それなのに、一度も一緒に佳孝さんの誕生日をお祝いしたことがなかった。
それに、この10年間の佳孝さんの時間は、楽しさとは無縁のものだったはず。ずっと、苦しんで闘って葛藤してきた時間だ。
だから、どうしても今日は一緒にいたい――。
身体を休めて回復して、元気な姿で佳孝さんに会いたいと思った。そうじゃないと、佳孝さんなら、すぐに私の体調に気付いて心配してしまう。
特に今日は、昨日のことがあるからなおさらだ。
昨晩の佳孝さんは、明らかにどこかおかしかった。
結局、その原因は分からなかったけれど、佳孝さんの部屋から帰る時には少しその表情がいつものものに戻っていたから、やっぱり会いに行って良かったと思っている。
それなのに、佳孝さんに余計な罪悪感なんて持ってもらいたくない。
そう思っていた。