囚われのシンデレラーafter storyー
(――お父さんの症状が進行しているの。今朝は、家を飛び出して踏切の前に立っていた。死のうとしていたのかただ立っていたのかは分からない。すぐに見つけ出せたから大丈夫だったけれど、このままではいけないと思う)
考えずにいようと思っていたのに、
今朝の妹との会話が脳裏を過る。
あずさの音は心の奥深くに入り込んで、すべてを暴こうとする。
(まだ、そうだとははっきりしないんだけれど、最近、記者みたいな人を家の前で見かけることがあって。お父さんのあんな姿が見つからなければいいなって不安なの。せっかく、やっと静かになったと思ったのに。私、ああいう人を見るだけで未だに身体が震える)
最終楽章、人を感動の渦に飲み込むような最大の盛り上がり。松澤の指揮が、オケとあずさの音を導き聴衆へと伝える。
本当に、あずさが目を輝かせて言っていた通りだ。松澤は本物の音楽家だ。
よく交響曲や協奏曲をCDで聴くけれど、同じ曲でも、指揮者が変わると不思議なくらいに変わる。
松澤の紡ぎ出す音楽は、ひたすらに作曲家が作り出した音を追及して音が持つものだけを伝える。
そのためだけに自分はそこにいるのだという姿勢が伝わる。
だからこそ、これだけの人を惹き付ける。
心から、作曲家とその作曲家が生み出した音楽をリスペクトし、真摯に向き合っているんだろう。