囚われのシンデレラーafter storyー
『パリ公演が終わったら、この気持ちを進藤さんに伝えるつもりです。
簡単ではないことは分かってる。でも、どれだけ時間がかかっても、手に入れてみせる』
今頃どうしてマスコミが動くのか。
執行猶予期間だから、あらゆる監視の目があるのは仕方ない。
いつなんどき、どんな父の姿を撮られるか分からない。それを狙っているのかもしれない。
そうなれば――。
『状況は何も変わっていない。むしろ、本当に夢を掴んだ今こそ大切な時期だ。彼女の影にあなたがいたら、ただ純粋に音楽を追及しその実力で世に出て行こうとしている彼女に余計な色をつけてしまう。ゴシップネタ付きの演奏家にしてしまうとは、もう考えられなくなったのですか?』
過去のことが、過去でなくなってしまう。
今度は、どう面白おかしく書き立てられるか分からない。
今、この目に映るあずさの姿が、激しく俺の心を揺さぶる。
あずさはもう、ただの無名の学生じゃない。俺が2年前に怖れていたことが現実になるかもしれない。
でも、ごめん――。
あずさのバイオリンの音が、鼓膜を通して心にたどり着き俺に訴える。俺のために弾くと言ってくれた、コンチェルトだ。
――西園寺さんといられることが、私の一番の幸せだから。私のバイオリンを、一番近くで聴いていて。
どれだけ心かき乱されても、どれだけ罪悪感に押し潰されそうになっても。
もう、無理なんだ。
以前のような決断はできない。
あずさと再会した日に決めたのだ。
割れんばかりの拍手の中で、ただ舞台をじっと見つめていた。
あずさが、凛として引き締まっていた表情を緩め、客席に笑顔を向ける。一気にくしゃくしゃの笑顔に変わる。それに聴衆の声が更に大きくなった。
松澤と共に、聴衆の歓声を前に立つ。やり切った充実感に満ちた表情が、何度も何度もそれに応えた。
あずさは、間違いなく最高のバイオリニストになれる。
この聴衆の興奮と表情が、すべてを物語る。
あずさが言った通り、最高のチャイコフスキーだった。言葉にならない感動が身体中を埋め尽くして、胸が締め付けられる。
あずさ、最高のプレゼントをありがとう――。