囚われのシンデレラーafter storyー
8 愛するということ
弾き終えた後、笑顔で舞台に立つことが出来た。
思い描い通り、演奏し切れた。その喜びでいっぱいになる。
この瞬間のために、すべてをここにかけて来た。
舞台袖に戻ると、オケのメンバーの人たちが笑顔で次々にハグしてくれる。
”アズサ、最高だったわよ!”
”一番の演奏だった”
”ありがとうございます。皆さんのおかげです!”
感極まって、私もきつく腕を回す。
この日の演奏会は、前半の部が私のヴァイオリンコンチェルト。そして休憩を挟んで、後半の部はチャイコフスキーの交響曲が演奏される。
舞台裏で、着替えるのも忘れて松澤さんのオケの奏でる交響曲を聴く。
佳孝さん、喜んでくれたかな――。
エネルギーを使い果たしまったく動けない中で、佳孝さんの顔を思い浮かべた。そして同時に、ふと、10年前のことを思い出す。
佳孝さんが私を、チャイコフスキーのコンチェルトのコンサートに誘ってくれた夏の日。
大学2年生で、その先の自分に何が起こるかも分からなかったとき。
佳孝さんとの初めての恋に、やって来る明日は希望に満ちた未来だった。
『チャイコフスキーのバイオリンコンチェルト、大好きなんです。いつか、あんな風にオケと演奏出来たら……。チャイコフスキーコンクールに出て、本選まで進めたら、コンチェルトを弾けるんですよ。だから、いつか受けられたらいいなって……』
コンサートが終わって二人で手を繋いで歩いた。その時、私は興奮して佳孝さんに話をしたんだっけ。
『だから、留学先の希望がロシアなのか。確か、チャイコフスキーはロシアの作曲家だよな?』
『そうなんです。モスクワに名門音楽院があって。世界中から優秀な学生が集まってるんですよー。習ってみたい先生もいるんです』
その時の私には、あまりに夢みたいで遠い世界のもののように思えたけれど。でも、確かに私の憧れる未来であり夢だった。
『……あずさがあのコンチェルトを弾いたとしたら、あずさはあずさのコンチェルトになるんだろうな』
佳孝さんは、笑うでもなくそう言ったのだ。
『それを聴いてみたい。今日のコンサートを見ていたらそう思った』
あの頃見た夢は、全部現実のものになりました――。
あんな、大それた夢を。
冗談で笑い飛ばたしたくなっちゃうくらいの言葉を。
佳孝さんはずっとずっと覚えていてくれたんだよね――。