囚われのシンデレラーafter storyー
「そんな……そんなこと、おっしゃらないでください。冗談でも、やめてください――」
もう、そう言ってこの場を何とかやり過ごすことくらいしか思い付かない。
でも、松澤さんは無情にも、冗談だとは言ってくれなかった。
「冗談でこんなことを言う人間ではない。だいたい、好きだなどと言ったのも初めてのことだ」
「私には大切な人がいると言いました。松澤さんもご存知のはずです。松澤さんの気持ちには応えられません」
目の前の松澤さんから身体を晒そうとすると、すぐさま腕を捕まえられた。
「分かっている。すべて、承知の上だ」
「やめてください。松澤さんは、常に音楽が上位にあって、そんな自分を分かっているから自ら女を誘ったりしないって。音楽のことしか頭にない、そんな人でいてください。もう、こんなこと言わないでください――」
「私は、君に出会ってしまった!」
聞いたこともない、切羽詰まったような声に怯えた目を向けてしまう。
「君がどれだけ彼を大切に思っているかも知ってる。それでも、諦められなかった」
「す、すみません、失礼します――」
力いっぱい腕を振り払い松澤さんから離れ、部屋を出て行こうとした。
「――君は、今日の公演で、間違いなく高い評価を得られるだろう。新人から名のあるバイオリニストに様変わる。西園寺さんも有名人だ。それも悪い方で。もし、君と彼の交際が世間に知られたら、君のバイオリンは下世話な話題に上書きされるぞ。せっかくの評価を無駄にしていいのか?」
え――?
松澤さんが私に向かって捲し立てる。
「君だけじゃない。彼は今、穏やかな日常を送っているんだろう? 過去のことをほじくり返されるんじゃないのか?」
その言葉に振り返る。