囚われのシンデレラーafter storyー


「君は言ったな。彼にはこれからも穏やかに過ごしてほしいと。自分より大切な存在なんだろう。そんな彼を、またあの地獄のような日々に戻すのか?」

私の、せいで――?

そんなことを真に受けたりしたくなくて、松澤さんに背を向ける。

「この先、一緒にいることがお互いを傷付けることになる。二人がお互いを大切に思っているならなおさらだ。大切な人を辛い目に遭わせていると日々感じながら一緒にいるのは苦しい。いつか疲れて、大きな傷になる。二人は一緒にいない方がいい」

違う。
絶対に違う――。

「――私にしろ」

強張る身体に後ろから腕を回された。
その腕の力は強くて、抱きしめられているのだと気付いた。

「やめてください――」
「君が、彼を忘れられなくてもいい。それでも構わない。でも、私を選んだことを絶対に後悔させない。いつか必ずこれで良かったと思わせる」

私が佳孝さんを苦しめる――。

思いもしなかった。私はただ、佳孝さんに見てもらいたくて。佳孝さんに喜んでもらいたくて。

それもこれも全部、あの人と同じ夢をみていたから――。

「離してください」

きつく囲われている身体を激しく捩る。

「これからのキャリアのことも考えろ。君も子供じゃない。愛や恋に打算があったっていい。俺を利用したっていい。そうやって相手を選んでも悪いことなんかじゃない。誰も責めたりしない」

やめて――。

「卑怯なことを言っていると分かっている。それでもやめられない……本当に誰かを想うと、こんなにも苦しいんだな」

松澤さんの必死に絞り出すような縋るような声に、されていることの強引さと相まって激しい虚無感に襲われる。

「誰かといて、心癒されるのも、落ち着くのも、君が初めてのことだった。身体なんて重ねなくても、もっと一緒にいたいと思った。この先もずっと私のそばにいて笑ってくれたら、どんなにいいかと何度も想像した」

その大きな身体から逃れられない。
虚しくて苦しくて身体がいうことをきかないけれど。

「君が好きなんだ。君しかいない。俺は本気だ。手に入れるためなら、どんな卑怯な手でも使う。でも、その代り。必ず君を大切にする」

佳孝さん。

「大事にしたい。私に君を愛させてくれないか。お願いだ、私を選んでくれ」

佳孝さん――!

――あずさ。

いつも表情をあまり変えない佳孝さんが、私を見つめる時だけ優しく甘くなる眼差しが浮かんで。

涙が込み上げて、喉が締め上げられて。
身体中の力を振り絞る。

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