囚われのシンデレラーafter storyー
「……お願いです。離してください」
身体に力を込めても思い知るあまりの無力さに自分が許せなくて、悔しいほどに掠れた声が漏れる。
そんな私の声に、弾かれるように松澤さんの腕が解かれ、身体が離れた。
「泣いてる、のか……?」
そしてその顔が私を覗き込むように近づいたので、思わず顔を背け震える身体を自分自身できつく抱きしめる。
「――私は、彼を愛しています。分かってください。何を言われたところで、この気持ちは変わりませんから。もうそれ以上何も言わないでください」
「そんなに好きか……。あの男が、そんなに好きか?
本番前の大切な時期に、君の身体を第一に考えることもなく、自分の欲に忠実になるような男だろ? 挙句に君は倒れた。私にはどうしても彼が君を大切にしているようには思えない。そんな男といても、今後の君にとって何のプラスにもならない――」
「……何を、言っているんですか?」
先ほどまでの感情のままに吐き出される声とは違う静かに諭すような言葉に、松澤さんの方へと顔を向けてしまった。
「君は彼を想うあまり、彼の本当の姿が見えなくなってしまっているんじゃないのか? 彼は、そんな君の想いを利用しているんじゃないのか」
「勝手なこと言わないでください!」
思わず張り上げてしまった自分の声に、ハッとする。
もしかして。松澤さんは、佳孝さんに何かを言った――?
懸命に頭を働かせる。
あの日――私が体調を崩した日。
どうして松澤さんと面識があるのかと佳孝さんに問い掛けた。
『それは……俺とあずさが二人で帰って行くのを見かけたみたいで。俺の顔を二年前の報道で見て覚えていたらしい。あずさを1階のラウンジで待っている時に、声をかけられて少し言葉を交わした。その程度のことだ』
その時、佳孝さんを傷付けるようなことを、何か……。
その前だって。佳孝さんの様子がおかしかった。
違う恐怖が身体を襲う。
「何か、彼に言いましたか? 答えてください。答えて!」
自分の身より、佳孝さんのことで頭がいっぱいになって叫んでいた。