囚われのシンデレラーafter storyー
「驚かせてごめん。仕事を早めに切り上げて、飛んで来た。なんとかこの時間に間に合ってよかった」
しんとした広い空間に、佳孝さんの声が響く。
外は寒かっただろう。
佳孝さんの頬が少し赤い。モスクワの冬は地獄だ。
「どうしても、今日が良かった。今日、言いたかったんだ」
「何をですか……?」
佳孝さんを見上げると、その目にどこか緊張のようなものが滲んでいる気がする。
「そのドレス……俺が買ったものか?」
私の質問には答えずに、その視線をドレスに向ける。
「はい。結婚していた時に買ってくれたうちの一つですよ」
3着のうちの一つ、深紅のドレスだ。あの時、結局自分では選べなくて、すべて佳孝さんが選んだ。
「よく似合っている」
佳孝さんが私を見て、目を細める。
「――あずさ」
佳孝さんが姿勢を正し私を呼んだ。
「7か月前、ここに駆け付けてあずさに再会して。あずさに言った」
佳孝さんが私の右手を取る。
「どれだけ苦労をかけたとしてとも、もう二度とこの手を離さないと。苦労や困難の分だけあずさのそばにいる。あずさのそばで愛し続ける。そう言った。そして、この指輪を渡したな」
そして、私の右手薬指から、佳孝さんが指輪を外した。
どうして――。
その行動に驚き、佳孝さんを見上げる。
「今度は、その思いを確かなものにしたい。俺の願いをきいてほしいんだ」
私の指にあった指輪が、佳孝さんの手にある。
「……俺と結婚してほしい。俺の妻に、家族になってくれないか?」
返事の前に、勝手に涙が込み上げる。言葉にならなくて、何度も何度も頷いた。
そんな私を見て、佳孝さんが深く安堵したようにくしゃっと笑った。
今度は私の左手を取り、薬指に今はずしたばかりの指輪をはめて行く。
「これは、過去の俺の気持ち。そして――」
右手で涙を拭っていると、佳孝さんがポケットから四角い箱を取り出しその箱を開けた。
「こっちが、これからの俺の気持ちだ。その両方を受け取ってほしい」
「佳孝さん……っ」
箱から取り出したもう一つのダイヤモンドの指輪を、同じ指に滑らせて。
ぴたりと二つの指輪が重なる。
涙ばかりが溢れて。嬉しくてたまらないのに、何も言葉が出て来ない。
「こ、こんな」
「過去も未来も、俺の心はあずさにしかないから」
堪えても堪えても、止まらない涙のままで佳孝さんに笑顔を向ける。
私を見つめてくれる愛しい人の顔を見ていたら、もう我慢できなくなって。
佳孝さんに腕を投げ出し、飛びついた。
「ありがとうございます……っ!」
そんな私を、佳孝さんがそのまま抱き上げた。身体が宙にふわりと浮かぶ。
「二人で、幸せになろう」
佳孝さんの首に腕を回し、その目を見つめた。大好きな人の優しい眼差しだ。
「はい! 佳孝さんとなら、絶対に幸せになれる。そう決まっているんです」
涙で滲んだ目で笑う私を、佳孝さんが優しく抱きしめる。
「愛してる」
「私も。愛してます」