囚われのシンデレラーafter storyー
9 始まりのエピローグ
音楽院をやめ、4月から佳孝さんと一緒にパリで暮らし始めている。
私は、再び、”西園寺あずさ”になった。
佳孝さんと一緒に母のところに結婚の挨拶に行った時は、
『もう、何も言えない』
なんて、誰の言葉の真似なのか、母はただ涙を流してその言葉を繰り返した。
細田さんは、
『こんな日が来ることを、私は確信していました。いや、来てくれなくては、この世を恨んだまま死んで行くところでした。こんなに深くお互いを想い合う人を私は知らない!』
と、涙ながらに力説してくれた。
そして、事務所の植原さんは、
『まあもし、世に何か書き立てられることがあったら、はっきり正直に、言ってやった方がいいわね。その方が、断然、印象がいい!』
と言い切った。
『私も、いろいろ考えた結果、それが一番いいと思っています。
最初は理解されなくても、自分たちさえ誠実に生きていれば、いつかそれが真実だと分かってもらえる日が来ると思います。もし、あずさが悪く言われるようなことがあれば、いつでも自分が矢面に立つつもりです』
佳孝さんの言葉に、私も言葉を続けた。
『何を言われても、私は自分の音で納得させられるように真摯に音楽に向き合っていきたい。演奏家としての私にできることはそれしかありません。現実から目を背けることもなく、悲観し過ぎることもなく、二人で乗り越えていきます』
佳孝さんと顔を見合わせる。
『大丈夫よ。今のあなたは一人の立派なバイオリニストだから。あなた自身の演奏でそれを証明した』
植原さんは私たちを見て、そう言ってくれた。
そして、佳孝さんのご家族と対面した。