囚われのシンデレラーafter storyー
『――君には、辛い思いをさせただろう。どうか、許してほしい』
佳孝さんのお父様が、私にか細くそう言った。
一度だけ会ったことのあるその姿は、その時とはまるで別人のようだった。一人掛けのソファに腰掛けた姿は、一回りも二回りも小さく見えて。時の経過と、その間の出来事を、知らしめる。
『出会った時からずっと、あずさには辛い思いしかさせられなかった。
二度も手放したのに、それでも変わらずに俺を想ってくれていたんだ。そんな彼女を、この先の人生をかけて幸せにしたいと思う』
佳孝さんのはっきりとした声が、広い居間に響き渡った。
『こんな状態になったうちのようなところに嫁いでくれる君には、感謝するよ。どうか、佳孝のことをよろしく頼みます』
『佳孝さんは以前も今も、何も変わっていません。私にとって、尊敬できる素敵な人です。私の方が、佳孝さんと家族になれることに感謝しています。どうか、よろしくお願いします』
そうご両親に頭を下げると、お母様が目頭を押さえた。
『本当に、ごめんなさいね。そして、ありがとう』
その言葉に頭を振る。
佳孝さんが私の肩に優しく触れる。潤んだ目で目を見合わせた。
『――あずささん』
帰り際に、声を掛けて来てくれたのは由羅さんだった。
『まずは、あなたに謝らなければなりませんね。あずささんには嫌なことも言ってしまった。でも、兄とあずささんの想いは、深くて大きいものだった。それを今、思い知らされています』
『いえ。嫌なことだなんて、思っていません』
立ち止まり、由羅さんと向き合う。私に向ける由羅さんの表情は、険しいものだった。
『兄とあずささんが離婚しなければならなかった時、私は何もできなかった。
あずささんの本当の姿を知ろうともせずに。知った時には、もう離婚してしまった後だから。これからは、妹としてよろしくお願いします』
『こちらこそ。私、兄弟がいないので、嬉しいです』
笑顔でそう返すと、由羅さんはようやく笑ってくれた。
それから少しして、佳孝さんの元に送り主不明の花束が届いた。
“二人の幸せを心から祈っている“
そう、メッセージだけが入っていた。
佳孝さんと顔を見合わせた。
その目に複雑な感情が滲んだのに気づく。
おそらくそれは、佳孝さんの親友だった斉藤さんだ。
佳孝さんもそう思っているのだろう。
そっと彼の腕を掴んだ。
「元気でいてくれるといいですね」
そうとだけ告げると、佳孝さんがふっとその表情を緩め頷いた。
今の私たちは、深い闇の中にがんじがらめになっていた時の二人じゃない。
いろんな人たちと共にいる――。