囚われのシンデレラーafter storyー
そして、4月30日。私の誕生日に、ささやかな式を挙げた。
せっかくだからと、お互いの家族をフランスに呼んだのだ。
今ではまったく問題なく日常生活を送っている母にも、楽しんでもらいたい。
佳孝さんのお父様も、日本から出て、気分転換に心を解放させるのも良いのではないかと主治医の先生も言ってくださって、こうしてフランスに来ることが出来た。
家族に見守られて、夫婦になる。
一度目の結婚は、紙きれだけのものだった。
「――あずさ、最高に綺麗だ」
いたってシンプルなウエディングドレス。装飾は一つもない、Aラインのシルクのドレスだった。
「佳孝さんも。そのカッコよさは、ダメです」
「ダメ……? 何がだめなんだ?」
二人きりの控室で向き合う佳孝さんが、真顔でそんなことを言って来る。
佳孝さんにタキシードを着せてしまったら、それはダメに決まっている。
グレーのタキシードが、似合い過ぎて。
もちろん知っている。佳孝さんが異常にフォーマルが似合うこと。
でも、これは格別。
直視できない。見つめたくてたまらないのに、見られない。
そんな葛藤と闘わなければならなくなる。
「自分が、どれほど素敵なのか分かっていますか?」
「それは、容姿のことか? それなら認識しているつもりだ」
またも真顔でそんな答えを返してくる。
「だったら、分るでしょう? かっこよすぎて、ちゃんと見られないんですよ――」
「バカだな」
佳孝さんが私の腰を掴み追いつめる。
気付けば、壁と佳孝さんに囲われていた。
「あずさは本当の俺を知っているだろう。この仮面の裏に何を隠しているのか。それなのに、カッコいいなんて言っていいのか?」
「いいに決まっています。私にとって佳孝さんは最高にかっこいい人ですから……っ」
じりじりと迫って来る、隙の一つもない端正な顔が私を追いつめて。
「なら、あずさにとってずっとカッコイイ男でいられるように、努力しないと」
「それで、どうしてそんなに近付いて来るの……?」
後ろに下がろうにもそこには壁しかない。佳孝さんの手のひらが私の頬に触れる。
「ん? 俺の奥さんがあまりに綺麗で、あまりに可愛いから。今すぐ、キスしたいんだけど。いいかな」
「え……? い、今ですか? でも、外でみんな待ってるから――」
佳孝さんの胸を押す。
「――お二人さーん。準備は、もういい?」
ドアの向こうから、由羅さんの声がする。
「ほ、ほら! 由羅さんが、心配して――」
慌てる私と違って、いたって落ち着いている佳孝さんが私の唇に指を当てた。
「――あと少しで行くから。そう伝えておいてくれ!」
ドアに向かって佳孝さんが叫ぶ。
あと少し――?
その長い指が、私の顎をしっかりと掴んで。
「……分かったわ。じゃあ、向こうで待ってます」
(んん――っ)
由羅さんの返事が終わらないうちに、私の唇は塞がれていた。