囚われのシンデレラーafter storyー
そして、私には、佳孝さんがくれたバイオリンがある――。
「今度のリサイタル、佳孝さんの好きな『夢のあとに』をプログラムに入れたんです!」
「あずさの弾くフォーレは久しぶりだ。こっそり、聞きに行こうかな」
「……そんなことして、大丈夫ですか?」
冗談とも本気とも取れない表情の佳孝さんを見上げる。
「だって、俺のホテルでのリサイタルだろ? 仕事のうちだ」
いつも冷静な佳孝さんの、私だけに見せる悪戯っ子のような目だ。
「それに、奥さんのステージだ。ここぞとばかりに、俺の妻だと周囲にアピールしておかないと」
今度は、私をドキドキとさせる一人の男の人の目になる。
「……俺の妻は、恐ろしく魅力的だから。いつだって心配でたまらない」
「よ、佳孝さん……っ」
その唇が私の耳たぶに触れ低く囁くから、身体が震える。
「どうしたって人目に晒されるあずさを、誰にも見えない場所に隠しておきたい。でも、そんなことしてあずさが舞台に立つ姿を見られなくなるのも困る。俺が毎日そんな葛藤と闘っていること。少し、労ってくれないか?」
「え……っ?」
大きな手のひらが意味ありげに私の頬に触れて。
「今すぐに」
私たちの住む家はすぐそこにある。
その言葉が意味するもを察して、ただこくりと頷く。
――あずさの心と身体は、俺のものだ。
佳孝さんは、私を抱くときに時折そう口にする。
初めて会った日から、この心も身体も、もうずっと佳孝さんのものだ。
一生、その愛しい人の腕の中に囚われていたい。
佳孝さんと、あなたがくれたバイオリンと。それがあれば、私は他には何もいらないのだ。
(完)